2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第255回「時間をかけて作る価値」
これまでの3倍の値段の「高級子ども服」をミキハウスが作ってますよ。
コロナも明けたし「これから一気に景気がよくなるぞ」ってことでしょうか。
いやいや。この商品をつくるのに足かけ30年かけてます。
30年ですか!すごい執念ですね。でも30年前とはかなり環境が変わりましたよ。
「ベビー服なんて一時的なものだし、そんな高いもん買わないよ」ってみんな言いますよね。
みなさん余裕がないですから。
だけどミキハウスは「素材は絶対これしか使いません。つくり方もこだわってます。だからこの値段です」って、30年前からやってるんですよ。
今どき売れるんですかね。
いま子どもが少ないから、産婦人科とコラボして退院祝いにミキハウスを出すんですって。「ぜひうちで産んでください」って。
へぇ~。
貰ったらかなり嬉しいじゃないですか。
今だったら口コミでお客さんが増えていきそうですね。
我々はミキハウスから学ぶべきですよ。「付加価値の高いものづくり」を絶対途中で投げちゃだめだってことを。だって30年ですよ。
ミキハウスはオーナー企業だから30年もかけられるんですよ。
創業者の木村さんは既に資本の大半を手放しています。
ということは会社のカルチャーですか。
そう。トップの鶴の一声ではなく「うちは高級子ども服でいくんだ」というカルチャーが残ってる。だからいい会社なんですよ。
星野リゾートもカルチャーを感じますよね。「うちはみんなでマスク外します」って宣言して。ちゃんと顧客を選別してます。
高級路線でいく会社はちゃんとブランドを守ってますよ。
中小企業もこういうことをやればいいのに。
そうなんですよ。ミキハウスのように時間をかけて「ここは譲らないぞ」というところをブランドにして欲しい。
ちなみにミキハウスの商品はいくらなんですか?
ミキハウスのお客さんは1回の買い物で20万円以上使うそうです。
20万!子ども服で20万って、ちょっと考えられないですけど。
今は子どもが少なくて、両方のおじいちゃんとおばあちゃんがいるから。財布はあるんですよ。
四人がかりでひとりの孫に色々買うわけですね。
だから高い物でも売れるんです。
高齢者のために若い人たちが年金をコツコツ払ってるのに。
お金を持ってる層はいますから。
ミキハウスさんはインバウンドも狙ってるんでしょうか。
もちろん。ミキハウスをいちばん評価しているのは海外ですよ。中国の人なんてめちゃくちゃ評価してる。
中国人のお金持ちなら20万ぐらい余裕ですね。
ただでさえ為替で安いから。とくにお土産によく売れるみたいです。
もらったら嬉しいでしょうね。20万の子ども服なんて自分ではなかなか買わないので。
僕も贈ったことがあるけど、ベビー用品って親がめちゃくちゃ喜ぶんです。だから「ギフトにこれを使おう」ってなるじゃないですか。
出産祝いなら1回きりだし。
そうなんですよ。
シャツ1枚なら、ちょっとぐらい高くても贈れますもんね。
そうそう。僕も2万円の「おくるみ」を贈ったけど、2万円のおくるみは自分じゃ買わない(笑)
少子化だからプレゼント市場は狙い目なんでしょうね。
そうなんですよ。
中小企業も「高くていいものを」を作ればいいのに。
なかなかやれる人はいませんよ。
小さいほうがやりやすいと思うんですけど。500人に1人のターゲットで成り立つので。
ほんとそうなんです。
ミキハウスや星野リゾートは「500人に1人でいい」というビジネスじゃないのに。なぜこんな思い切ったことができるのか。
日本人を相手に組み立ててないからだと思います。
やっぱりそこですか。
高く売ることを考えると、どうしてもそうなっていきますよ。
「コロナが落ち着いて、インバウンドが増えて、日本でお金を使ってくれるだろう」ということを、計算に入れていると。
日本製品やおもてなしサービスの競争力は変わらずにあるわけですから。やり方次第ですよ。
もう日本人には高いものは買えなくなると言われてますよね。銀座の高級店も「日本語が通じなくなるんじゃないか」と。
そうなっちゃう可能性はあります。採用の仕事でスキー場に行ったんですけど、ゲレンデで日本語が聞こえなかったです。
日本のスキー場は外国人に人気がありますもんね。
それにしてもびっくりしました。「こんなに多いんだ」って。
銀座を歩いていても日本語が聞こえなかったりしますから(笑)
銀座4丁目の交差点なんて周りはみんな海外の方ですよ。
コロナで3年ぐらいインバウンドが止まったじゃないですか。「もう元に戻らないかも」って思ってたんですけど。一気に戻ってきましたね。
あっという間にコロナ前を超えると思います。オーバーツーリズムとか、受け入れの問題もあるんですけど。
受け入れの問題ですか。
要は人手をどうするかっていう。思い切ってインバウンドにシフトして、単価を上げて、賃金も上げて、人を集めればいいんですよ。
賃金を上げれば集まりますか。
いま18万のところが「30万払う」ってなったら、そりゃ来ますよ。いい食材を「好きに使ってくれ」って言ったら板前も調理師も来ます。だってやりたいですもん。
円安がずっと続けばいいんでしょうけど。
円安は確かに大きいです。ただ競争力という点でいうと、風景とか、食とか、サービスとかが世界トップレベルなのは間違いない。
日本人はそこに慣れちゃってるから。高いお金を払わないですもんね。
そうそう。見慣れたそのクオリティが世界ではトップレベルなんですよ。
1食1万円なんて「あり得ない」って感じですけど。海外からの人から見たら高くないんでしょうね。
今は為替の影響もあるからとくに安い。自国で食べる3割引ぐらいですよ。
インバウンドに特化した「1杯2,000円のラーメン屋」とか出てきそう。
3,000円でも来るでしょ。宿も1泊10万以上のホテルが地方には必要なんです。仙台ですら1泊10万がない。だから、なかなか海外の富裕層が集まらない。
なるほど。逆に安すぎて。
安すぎて。だから石川県とかは逆に強いんです。
加賀百万石の老舗旅館とかありますもんね。
そうなんです。地方の高級旅館や料亭はこれから大チャンスですよ。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。