7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第89回「自覚がないのは誰?」
大幸薬品さんの採用手法が話題になってますね。「あえて弱みを見せる」みたいな。
ああ、はいはい。今更って感じですけど。
どんな内容なんですか?
大幸薬品って今までは「いいイメージを見せる」という、お決まりの求人方法だったんですよ。
大幸薬品ってラッパのマーク正露丸ですよね?
はい。名門企業です。
そこがあえて弱みを晒しての採用をすると。
「うちは今こんな課題を抱えてます。こんな危機感を持っています」って出すことで、採用の本気度を知ってもらおうみたいな。
なるほど。「それが新しい」という記事だったわけですね。日経的には。
そうです。ぜんぜん新しくないですけどね。
いきなり! ステーキの「社長のお願い」と同じような感じですか?“弱みを見せて共感を得る”みたいな。
うーん。「いきなり」の場合はそもそも会社の評判が悪いから。
そうなんですか。
はい。非常に。
それはなぜ?
まず業者を叩かないと利幅が出ないモデルだから。
業者間の評判が良くないってことですか?
「ペッパーフードサービスと付き合って誇りに思う」なんて業者さん、たぶんいないと思う。
でも「コストダウンを要求する」って普通のことじゃないですか。
行儀が悪いんですよ。
行儀が悪い?
仕切り値を途中で変えたりとか。
へえ。
映像・画像なんかを納品しても「OKです」となってたものが「会長が気に入らないんで」って、何度も修正させたり。
なるほど。ワンマン会社にありがちな話ですね。
おっしゃるとおり。
大幸薬品は、それとはちょっと違うと。
大幸薬品はさすがにそんな行儀の悪いことはしない。
ちなみに「弱みを見せる」戦略は、うまくいく可能性ありますか?
本音採用っていうんですけど、もう昔からやってる手法ですね。
大幸薬品ほどの大手でも?
大手はプライドもあるので、あまりそういう手法はやってこなかった。
「そこまで困ってる」ってことですか?採用に。
そうだと思います。
だけど大手以外は昔からやってる手法なんですよね。
はい。ずっと前からやってます。
素直に言えばいいだけだと思いますけど。「いかにあなたを必要としてるか」って。
安田さんは採用業界にいたからそう思うんですよ。普通の経営者はそんなこと考えもしません。
私が採用やってた頃って「上から目線の採用」が当たり前でした。
今でも大して変わりませんよ。
へえ。で、採用が大変になってきたから、しぶしぶ気を遣うようになって来たと。
それでもまだ意識は低いですけど。
そうですか。
はい。人が集まらない時点で事業モデルに欠陥があるんですけど。そこを自覚してる経営者はごく少数派。
いまだに?
5パーセント未満ですよ。そんな経営者。
「人が集まるモデルに変えよう」みたいな発想はないんですか?
まったくないです。
やっぱ根底に「こっちが給料を払ってる」ってのがあるから。
余裕のある会社ほど人に鈍い傾向があります。「金で解決できるわ」って。あと、経営者の感覚が旧いケース。これは年齢問いません。
若くても感覚の旧い経営者がいるってことですか?
います、います。若いのに「金払えばついてくる」と思ってる経営者。
へえ。
あとは「ウチはビジネスモデルが秀逸だから」とか。非常に主観的。頭が旧い。
レベルを問わないのであれば採用はできるでしょうけど。「どこに行っても採用されない」って人もいるので。
それは採用とは言わない。
ですよね。お願いしてでも来て欲しい人を採らないと。
そこが繋がってないんですよ。
なぜ繋がらないんですかね。簡単な算数ですけど。
ヒト・モノ・カネという経営3資源で「ヒト」っていちばん分かりにくいから。
中小企業の社長に「どれが一番大事ですか?」って聞いたら、99%「ヒト」って答えますよ。
そうなんですよね。でもあれは模範解答であって本音は違う。
本音は違いますか。
もう完全にダブルスタンダードですよ。
へぇ。
「採用のやり方がわからない」って素直に言える経営者は、まだ救いがある。
謙虚さがあると。
はい。その感覚がないところに、いくら採用のノウハウを伝えてもどうしようもない。
そういう場合はどうするんですか?
お断りします。
でも経営者にそういう感覚があるかどうかって、見抜けます?
はい。まず「代わりはいくらでもいるから」って言っちゃう人はダメですね。
いますね。「辞めたらまた採りゃあいいんだ」って社長。
はい。次が「自分が言ったことを忘れる人」。コロコロ方針が変わって、それをぜんぶ社員のせいにする。
それもまた最悪ですね。
あと、「朝からいつも不機嫌で、すぐ怒号が飛ぶ人」もダメ。みんな地雷を踏まないようにピリピリてる。
目に浮かびますね。
まあ、いろいろあるんですけど、一言でいえば「自分の身内を絶対に入れたくない会社」ですね。
そういう社長でも採用の相談はして来るんですか?
はい。「どういうわけか、採れなくて困ってるんだ」って。
自分が原因で「採用力が落ちてる」って自覚はない?
まったくありません。
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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。