第16回 雇用を創出するのは誰?

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第16回 雇用を創出するのは誰?

安田
突然ですが鈴木さん、「雇用の創出」には誰が責任を持つべきだと思われますか? 国、会社、個人、どこなんでしょうか?

鈴木
う〜ん、どうですかね。昔のように国にインフラ基盤がなかった時は、どんどん公共工事をやる必要があったわけで、ある意味自然に雇用が生み出されていた。つまり国が責任を持っていたわけですよね。
安田
確かにそうですね。でも現代はどうでしょう。高度成長期ほどのニーズがあるとも思えないし、国が頑張って充分な雇用が生み出せるとも思えませんけど。せいぜい企業に対して「もっと人を雇え」と言うくらいしかない。

鈴木
でも会社もそう言われて「はい、雇います」とはならないでしょう? 必要もない人材を雇う余裕なんてないわけで。
安田
たしかに経営者の目線ではそうなりますよね(笑)。「もっと人を雇え」と言っているあなたこそもっと雇えばいいじゃないかと。

鈴木
そうですよね(笑)。
安田
逆の目線はどうでしょうね。会社に所属している社員さんがもっと頑張って、会社の売上をどんどん上げる。そうすれば会社に余裕が生まれ、結果雇用が創出されると思いますか?

鈴木
それはあり得るでしょうね。とても健全な雇用創出だと思います。つまり「雇用は誰が創出すべきか」という問いの答えは「個人」ということになりますか。
安田
同感です。雇用の創出もそうですが、賃上げに関しても基本、個人の頑張り次第だと思っています。

鈴木
ああ、それで思い出しましたけど、最近仲間の経営者に「これじゃ生活できない」と直談判してきた社員がいたそうです。というのも、その会社も働き方改革一貫で「NO残業デー」を取り入れていて。結果、「残業代が減ったせいで生活ができなくなった!」とその社員は言うわけです。
安田
ああ、そういう話、よく聞きます。でもその方の考えは間違ってますよね。「残業で稼ごう」じゃなく、「仕事の成果を上げて稼ごう」という思考にならないと。鈴木さんはその辺りはどうお考えですか?

鈴木
全くその通りだと思います。残業代をあてにしているということは、単に時間を売っているに過ぎないわけですから。そもそも効率が悪いから残業することになっているわけで、二重の意味でよくない。
安田
ええ。与えられた仕事は定時内にキッチリやり終え、空いた時間に副業すれば収入は上がりますよね。……そういえば最近は副業可の企業も増えていますけど、副業で体を壊す人が続出しているらしいです。

鈴木
え? それは働きすぎで体を壊してしまうんですか?
安田
先ほど鈴木さんが仰っていたように、「残業代で稼げなくなった人」が無理な副業をしてるケースも多いみたいです。結局、残業はゼロなのに毎日12時間以上働いている。それで体を壊してしまうと。

鈴木
う〜ん、仕方ない部分もあるのでしょうが、それで体を壊しちゃったら本末転倒ですよね。というか、やっぱりそういう人は「働く=時間を切り売りする」という概念から抜け出せていないんでしょう。
安田
確かにそうですね。「働く時間を増やす」のではなく「給料を増やす」へと明確に意識を変えないとダメでしょうね。そしてそれを実現するには、努力して自分の仕事の生産性やクオリティを上げるしかない。

鈴木
その通りだと思います。私はよくそれを歌舞伎役者なんかに例えるんですけど。歌舞伎役者さんって、お客さんからおひねりをもらいますよね。たくさんおひねりをもらいたければ、自分の芸を磨くしかないわけです。逆に言えば、たくさんもらいたいなら努力を怠ってはいけない。
安田
ああ、わかりやすい。お客さん=会社、おひねり=給料、というわけですね。それにしても、すごく単純な話なのに、意外とわかってない人が多いですよね。

鈴木
そうなんですよ。会社だってね、自分の会社に大きな利益をもたらしてくれる人であれば、高い給料払いますよ。年に1億円稼いでくれる人は、年収2000万円、3000万円払ってもプラスなわけですから。
安田
そうそう。むしろ辞められないように積極的に賃上げするでしょうね。一方で、給料以下の利益しかもたらさない人に突然「給料アップするね」なんて言うはずがない(笑)。

鈴木
ええ、本当にシンプルな話なんです(笑)。こうして話してあらためて、「雇用創出のカギは個人のスキルアップ以外にない」と思いました。
安田
ですね。でもその「スキルアップ」についても、会社がやってくれるもんだって思っている人、多くないですか?

鈴木
いますね〜(笑)。「入社したらどういうことを教えてくれますか?」「スキルアッププログラムはどんなものが用意されていますか?」と、平気で聞いてきますよね。まあ、気持ちは分からなくもないですけど。
安田
これって日本独自の考え方みたいです。外資系企業でそれを聞いたら、その瞬間に不採用になるらしいです(笑)。

鈴木
笑。経営者目線で考えると当たり前ですよね。それこそ「自分で努力してくださいよ」という話です(笑)。
安田
だいたい今の日本はどこも人材不足ですから、スキルさえあれば採用してくれる所はいくらでもあるんです。つまりスキルアップすれば、給料もアップする。そういう大チャンスな時代なんですよ。

鈴木
仰る通りです。「国は雇用を生み出せ!」「会社は給与を上げろ!」と文句を言ってても何も変わりません。自ら努力してそれを掴めばいい。そもそも「収入」という一番大切な部分を他者に委ねている状態は、僕はおかしいと思います。
安田
本当にそうですよね。会社に貢献していない人の給料まで増やすなんて、可能か不可能か以前に理屈に合っていないというか。

鈴木
そうですよね。でも貢献できていない本人は、その当たり前の事実にいつまでも気づけないのかもしれません。だから文句を言うしかない。
安田
これまでと同じ成果しか出していないのに、突然「今月から給料3倍払います」なんてことが起こるわけないじゃないですか(笑)。ちょっと考えればすぐわかりそうな気もするんですけれど。

鈴木
とはいえ多くの人は「残業もなく、ストレスも感じず、楽なのに給料は今の3倍貰える。国はそういう仕事を用意してね」と思っているわけですからね。そんな奇跡みたいなこと、ありえませんって(笑)。
安田
もしかすると「国や会社に雇用機会を生み出してもらう」という発想自体、捨てなくてはいけないのかもしれません。もしくは、そういう夢のような働き方をしたいのであれば、自分自身で仕事を作り出すほかないでしょうね。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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