第189回「日本劣等改造論(21)」

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 ― トモスケを探せ(前編)―

「助かりました、ありがとう」「いえいえ、お互い様ですから」

というやりとりをいつしただろう。

この互いに助け合うこと(以降、トモスケという)で生まれる会話のストロークを、毎年全国でカウントできたとしたら、ここ20年ぐらいでその数は激減しているだろう。逆に激増したのは、ネット上で人の揚げ足を取るような匿名コメント。

社会全体で、トモスケのような心があったまるストロークが減って、心が冷えるようなバーチャルのストロークが増してくると、他者と関わるのが億劫になる。自分の揚げ足を取るような存在がどこかに隠れているかもしれない、いや目の前の相手が実はそうかもしれないからだ。

他者との関わりの中でも特に減ったように感じるのが善行。相手に良かれと思って手を差し伸べても「余計なことをするな!」とカウンターパンチが返ってくる・・なんて勝手に想像してしまう。さらに善行される側も声をかけられるとビクッとする始末。

結果、善行に対して皆が臆病になった。本来は自然に善行が行われ、トモスケがあちこちに生まれていたが、善行するのに勇氣と心理的安全性を高めるような氣配りが必要になった。そしてとどめを刺したのがコロナ禍。ソーシャルディスタンスや黙食やテレワークで他者との関わりが極端に減るわ、感染したりさせたりするかもと警戒しあうわの状況。

困っている人に手を差し伸べようと公助の施策をしようものなら「贔屓している」「甘やかしてはいけない」だのなんだのと揚げ足が取られる。トモスケは絶滅の危機ではないか!

トモスケがなくなると普通は困るが、幸か不幸か困らなかった。なぜならスマホという武器があるからだ。

人に道を聞かなくてもgoogle mapが教えてくれる。ちょっとした知識、ノウハウもwikiが教えてくれる。あれが欲しい、と思ったらお店で探さなくても、アマゾンで一発に見つかる。遅刻しそうになってもLINEに送れば「気をつけてね」と返信が返ってくる。

誰も「助かりました、ありがとう」とスマホには言わない。仮に言ったとしても「いえいえお互い様ですから」なんて粋な返事をスマホはしない。スマホ自身は困って誰かに助けてもらうことはないから、お互い様なんていわないのだ。

トモスケがいなくなって一人ぼっちになっても、スマホがその寂しさを癒やしてくれる。ゲームに動画にSNSに、それも無料で。スマホのアプリを立ち上げて写真一枚でも投稿すれば誰かが「いいね!」を押してくれる。一人でも困らないし寂しくもないのだ。

とうとう人類は誰にも依存せず、一人で生きる力を得た。他者と関わらないから比較もしない。劣等感から開放される。これぞ自立の完成、自立の成就!!スマホと通信技術、コロナによる分断のお陰で、理想とする自立社会が誕生した。ジョブズさん、コロナちゃん、どうもありがとう。めでたし、めでたし。

いやいや、めでたくない。トモスケがいなくなると困る。それは「生み出す力」がなくなるからだ。地図の利用にせよ物品の購入にせよ、スマホが提供してくれるのは、生産ではなく消費。自立しているように見えるのは自ら検索して選択しているからであって、本質的には消費者。生産者ではない。何かを生み出そうという原動力とアイデアはトモスケがいるからこそ湧いてくる。トモスケを探さねば。後編では、絶滅の危機にあるトモスケを探しにいこう。

 

著者の他の記事を見る

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

著者ページへ

 

感想・著者への質問はこちらから