第198回「日本劣等改造論(30)」

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

 ― 不自由を手放す―

心は自由である。

我々はこの世にいないピンクのパンダをイメージできるし、ドラえもんのような未来から来た架空のロボットを生み出すこともできる。寝てみる夢は心の自由度が高いので、空を飛ぼうが、タイムスリップしようが、王様になろうがなんでもあり。

「自由になりたい!」と心は叫ぶので、自由を得ようとがんばる。すると同時に誰かの不自由がセットでついてくる。領土を広げようと侵攻すればその分、侵攻された側が不自由になるように。作用反作用の法則である。

この宇宙で自由のパイは限られているので、自由になろうと頑張ると争いが起こる。人間は欲が無限に広がるので、その欲が拡大する分、パイの奪い合いとなるわけだ。ちなみにパイとはπであり円周率3.14のことではなく、利益を表す記号である。

世界を自由に行き来できるようになって地球は狭くなってしまった。その狭い世界で、パイの奪い合いを始めたのが大航海時代。帝国主義を経て世界大戦となる。日本は世界のその趨勢にうまく乗ったのだが、世界大戦2度目の時、人類を滅ぼすパワーを持つ原子爆弾二発を投下され敗戦。そして、世界大戦は停止した。1990年のソ連崩壊でその大戦は終止符を打ったかに見えたが、パイの奪い合いは終わらず今も続いている。

国土が広大で、多様な民族、多種の宗教、さらに数多くの国と国境を挟んでいると、「国を一つにして一致団結しなければ自由を奪われる」という「防衛意識」が高くなる。その意識が共産主義と鉄のカーテンを生み出したのだが、さらにその裏ではその防衛意識に乗じて、儲けたい産業が自由の女神の国を利用して荒稼ぎすることになる。

戦争になって世界中が不景気になっても、パイを一番得ているのはその産業だろう。軍事同盟を結べば結ぶほど市場はでかくなる。と考えると、軍事同盟の拡大をしながら、戦争の機運を高めているのは誰なのかわかる。

自由になりたい!という欲がある限り、人間はパイの奪い合いをするわけだが、そんな無限の欲に付き合っていると身を滅ぼすことになる。人類は何度痛い経験を重ねても、同じ失敗を繰り返している。無限ループに陥っているのだ。

そんなラットレースをするよりも効率的なのは、不自由を手放すことである。不自由だから自由を得たい!ではなく、不自由を手放すのである。何を手放すかというと、不自由になることへの恐れである。誰かに支配されるのが怖い、自由を束縛されるのが怖い、といった恐れを手放すのである。

そんなことをしたら無防備になって、逆に支配されるのでは・・と不安になったなら、恐れに支配されている証拠である。その恐れの支配を手放そうとしたのが、インド独立の父ガンジー。「非暴力と不服従」を貫いた。無謀なあり方に、自由がある。そして、この領域には例の産業が入り込む余地は1ミリもない。

不自由を手放すって怖いこと。なんでもすぐに手に入る自由。食べ物も、情報も、冷暖房も、薬も、教育も、エンタメも。そんな世界にいると、不自由になることが怖い。都会に出たら田舎に戻れなくなるのと一緒。そういった生き方をしていることが、パイの奪い合いを生み出していることに気づいた時、自分と戦争がつながるのだ。

平和ボケの国から戦争反対と叫んでも声は届かず。それよりも、不自由を手放すことを学んでいけば、そこから新しい機運が起こり、その共感のウェーブがパイの奪い合いのアホらしさを氣づかせていくだろう。
 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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