長いイノベーション

大きな会社には資金力がある。
だからじっくり時間をかけて事業に取り組める。
ように見える。理論的には間違っていないはずだが、
これは現実に即していない。
なぜなら周りがそんな経営を許さないからである。

いかにして競合他社よりも早く成長し、
いかに大きな市場価値(株価)をつくり上げるのか。
株主からも、マーケットからも、世の中の常識からも、
年単位どころか四半期ごとのスピード成長が求められる。
それが現代の大企業経営である。

「ウチは20年ぐらい横ばいでいいんですよ。
わっはっは」などという経営者は、
すぐに市場から追い出されてしまうのだ。

小さな会社には資金力がない。
じっくり時間をかけて事業に取り組む余裕がない。
ように見える。だがこれも先入観に過ぎない。

真面目に、コツコツ、
信頼を積み重ね、技を磨き続ける。
これは日本人が元々持っている資質であり、
家業に近いスモールビジネスでこそ、
実現可能な戦略である。

日本に足りないのはイノベーション力だと言われるが、
イノベーションにも種類がある。
世の中の常識やインフラそのものを
変えてしまうようなイノベーション。
そこには人類規模のメタ認知力や天才的な発想力、先見性、
そしてグローバル世界に直結するネイティブ言語が必須だ。

つまり日本語を母国語とする我々には不利であり、
なおかつ向いていない。
まずこの事実を受け入れるべきである。
そして日本人に最も適したイノベーション力を磨き続けるべきだ。
それはすごいイノベーションではなく長いイノベーションである。

時間という概念を期間という概念に変える。
石の上にも30年。
こんな経営をされたら他者は絶対に追随できない。
いや追随しようすら思わないだろう。

たとえば数十年単位で取得する職人技術。
数十年かけて築き上げた品質管理の文化。
日本には元々それがあったはず。
だが近年のグローバル競争によって、
大企業の持つそれらの利点は完全に失われてしまった。

世界中から資金を集め、
世界のマーケットでビジネスを行う限り、
大企業には長いイノベーションは起こせないのである。

目先の利益ではなく数十年先の利益。
世代を超えた価値創造。次世代への価値の継承。
それこそが私たちのミッションである。
そして、それが許されるのは小さなファミリー企業か、
ビジョンに共感する社員で成り立っている会社のみ。
時間という壁こそが最強の参入障壁となるのである。

 

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