さよなら採用ビジネス 第15回「雇わなければ社員は辞めない」

このコラムについて

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回のおさらい ①終身雇用とは100歳定年である ②副業禁止で最も得をするのは誰か? 第14回「なぜ企業は副業を禁止したがるのか」


石塚

実は前回の対談の後、ずっと考えていたんですよ。

安田

前回は副業についてでしたよね?

石塚

はい。なぜ多くの企業は、かたくなに副業を禁止するのか。

安田

単なる思考停止ではなく、明確な理由があると?

石塚

はい。一番の理由は「トップクラスの社員が辞めてしまう」という恐れじゃないかなと。

安田

副業することによって、優秀な人が目覚めてしまうと?

石塚

はい。稼ぎも増えるし、仕事だって楽しくなるじゃないですか。時間も自分でコントロールできるし、ややこしい上司や社内稟議も通さなくていい。

安田

外の方がずっといいじゃん、ということがバレてしまうと。

石塚

バレます。間違いなく。だから副業を禁止する。つまり、最大の理由は「優秀な人材の流出リスクを避ける」ため。

安田

でも、たとえ副業を禁止しても、流出は止められないですよね。前回の話にも出ましたけど、優秀な人って雇い続けられないですから。

石塚

確かにそうなんですけど、会社としては何とかして雇い続けたいと。

安田

それってマイナス面の方が大きいですけどね。

石塚

どういう部分ですか?

安田

まず、副業を禁止することによって採用力が下がる。

石塚

確かに。それを基準に会社選びをする学生も出てきそうですね。

安田

間違いないです。でももっと大きなマイナスもあります。

石塚

何ですか?

安田

雇い続けることによって、辞めてしまう。

石塚

それが原因で辞めるということですか?

安田

人って、雇用するから辞めるんですよ。

石塚

どういうことですか?

安田

雇用していない人は辞めようがない。

石塚

(笑)当たり前じゃないですか!

安田

いや、当たり前じゃない。みなさん分かっていない。

石塚

詳しく教えてください。

安田

社員って固定給じゃないですか。

石塚

はい。

安田

つまり報酬額が決まっている。そうなると、仕事を喜べなくなるんですよ。

石塚

仕事が楽しくなくなるのは固定給のせいだと。

安田

はい。私、実際にやってみたから分かるんです。これは今の会社での話ですが、固定給で人を雇っていた事があって。仕事が増えていくと、だんだん暗くなっていくんです。

石塚

仕事が多過ぎるという事ですか?

安田

多過ぎるとは思っていませんでした。実際そんなに多くもなかったです。ただ固定給が決まっていると、出来るだけその人に仕事を振りたくなるじゃないですか。

石塚

経営者の立場からしたらそうでしょうね。

安田

でも固定給が決まっている側は出来るだけ受けたくない。

石塚

そんなことも無いんじゃないですか。仕事が好きな人もいますよ。

安田

これは仕事が好きだとか、そういう話ではないんです。構造の問題です。

石塚

構造?

安田

はい。実はその後、固定給が払えなくなって、受けた仕事ごとの支払いに変えてもらったんです。

石塚

ほおぉ。

安田

そしたら対応が180度変わりました。

石塚

そんなに?

安田

はい。仕事を振るとすごく嬉しそうな顔をして「ありがとうございます!」と言ってくれるようになりました。

石塚

嫌がっていたのが、お礼まで言われるようになったと。

安田

はい。だって仕事量が収入に直結するわけですから。それに嫌なら受けなきゃいい。

石塚

確かに。でも辞めなくなる、というのはどういう事ですか?

安田

固定給の頃は、本当に辞めてしまうかもしれないと感じていました。仕事を受けるのが嫌そうだったので。

石塚

でも今は辞める心配はないと。

安田

だって、考えてもみてください。その仕事が嫌なら断ればいいし、受けたい仕事なら受ければいい。そこから離れていく理由がないです。

石塚

自分で距離を調整できますもんね。

安田

そうなんです。そこが重要。固定給が決まっていると「その条件で100%受けるか、断ってゼロになるか」という二択になります。

石塚

100%が無理なら辞めざるを得なくなると。

安田

はい。だから二択を迫るのではなく、ゆるく付き合う。そうすることによって繋がりが切れなくなる。

石塚

でも、ゆるいぶん、希薄な関係になったりしませんか?

安田

いえ、結果的に前よりも良好な関係になりました。向こうから積極的にアプローチしてくれるし、食事をご馳走になったこともあります。手放すことによって主導権は前よりも強くなりました。

石塚

なるほど!面白いですねぇ。

安田

優秀な人が辞める時には大抵、何かやりたい事があるんですよ。だったら縛りをゆるくして、それをやらせてあげればいい。

石塚

そしたら好きな事ばかり、やるようになるのでは?と考えるのが普通ですよね。

安田

いえ、なりません。生活もあるし現実的にはお金を稼がなくてはならない。仕事のオファーが来て、得意な事でお金が稼げて、やりたい事にもチャレンジできる。断る理由がないです。

石塚

でも会社としたら、その「やりたい事に使ってる時間」も、自社のために使って欲しいのでは?

安田

自社の有能な人材の日常を、一度きちんとリサーチしてみるべきです。大抵、とても手間がかかるツマラナイ仕事までさせています。

石塚

だから辞めてしまうと。

安田

それもあります。でもそれ以上に、無駄なコストを支払っているという事です。

石塚

たしかに。外注すれば無駄なコストが削減できますよね。

安田

はい、その通りです。どんなに優秀でも、その人の時間を100%活用することなど出来ません。だから、どうしても無駄な仕事までさせてしまう。

石塚

ファイリングとか、交通費の精算とか、部下のマネジメントとか・・・

安田

そういう雑用や専門外の仕事をどんどん排除していって、最も得意な仕事だけやらせる。すると効率はめちゃくちゃ良くなる。本人にストレスも溜まらない。

石塚

良いことばかりですね。

安田

はい。ただ時間は、かなり余ります。優秀な人材って色々やらされているんですよ。

石塚

確かに。優秀な人には仕事が集まりますからね。

安田

はい。それを除外すると時間が余る。でも固定給だと、遊ばせておくわけにもいかない。周りとの兼ね合いだってありますし。

石塚

だから外注としてゆるく付き合ったほうがいいと。

安田

絶対その方がいいです。パフォーマンスは上がるし、コストは下がるし、辞める心配もない。

石塚

確かに、その通りですね。社会保険料や、有給休暇や、退職金とか考えたら、トータル絶対に安いし。

安田

高齢化した時とか、仕事が出来なくなった時のリスクもないし、その対処に莫大なコストもかかりません。

石塚

もはや優秀な人材を囲い込むメリットは何もない。

安田

はい、その通り。

石塚

いずれは社員のほとんどが外注になるかもしれませんね。そうなっても会社は困らないと思いますか?

安田

会社は困りませんが、困る人がいます。

石塚

誰ですか?

安田

社長。

石塚

社長は自立しているイメージですけどね。

安田

いや〜私の経験上、全然そんなことないです。

石塚

前にも言ってましたね。ひとりでは生きていけないって。

安田

はい。気がつかないうちに、完全に依存体質になってます。

石塚

辞めても社員も会社も困らないけど、社長は困ると。

安田

はい、その通り。

次回第16回へ続く・・・


石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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