第37回「中小企業に残された時間」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第37回「中小企業に残された時間」

安田

最低賃金が上がりましたよね。

久野

はい。生産性を高めないと中小企業は生き残っていけないです。

安田

どの程度まで高めればいいんですか?よく久野さんは言ってますよね。業界平均の1.5倍ぐらい払って、なおかつ利益が出ないとダメだって。

久野

本当は上場企業並みに払えるといいんですけど。

安田

じゃあ年収1000万とか。

久野

少なくとも管理職には年収1000万ぐらい払えるのが理想。

安田

管理職以外はどうですか。

久野

平均年収500万で休日125とかじゃないですか。

安田

それが最低ライン?

久野

そうでしょうね。

安田

125日休ませて、残業も月20~30時間以内で、平均年収500~600万ぐらい。中小企業にとってはなかなか厳しいラインですね。

久野

上場企業の平均年収はもっとすごいじゃないですか。平均賞与額とか見てると中小企業の社員はテンション下がりますよ。

安田

確かにこれまではそうでした。大量生産・大量消費の時代だったので、大企業は儲かっていたし、社員にもたくさん給料が払えた。でもこれからは厳しくないですか?

久野

そうですね。大企業にも余裕がなくなってきましたね。

安田

世界マーケットでしのぎを削りあっているので、最先端のものを常に最安値で供給しなくちゃいけないですから。

久野

ですね。

安田

この先も大企業の社員の収入が中小企業を上回り続けるのか。正直そこは疑問なんですけど。

久野

大量生産の中では、付加価値が生まれにくい時代になってきてますから。

安田

もちろん大企業のトップ層は稼ぎ続けるでしょうけど。現場の社員はどうでしょうね。無人化に向かうかもしれませんし。

久野

業種によるでしょうね。

安田

外食ビジネスでは大きなチェーン店が苦戦しています。単価が高くてお客さんに選ばれ続ける店って、個人店ばかりですよ。

久野

外食はそういう傾向ですね。

安田

外食に限らず、少人数精鋭型のほうが付加価値を発揮しやすい。平均年収も上げやすいです。

久野

そうなっていきますよね。

安田

この先、大量生産で平均年収を上げるのは難しいですよ。

久野

普通に考えたら、そこで社員の給与が増えることないでしょうね。技術革新にも限界がありますし。

安田

完全に時代が変わった気がします。中途半端に組織化せず個人でやってるほうが、500~600万なんて簡単に稼げたりする。

久野

確かにそうですね。

安田

100人の会社で平均500~600万にするって、結構大変じゃないですか。

久野

人数多い方がきついですよね。

安田

はい。中途半端に大きいところが一番きつい。これからの時代は、大きくすることに対してもっと慎重になったほうがいいですよ。

久野

大きくしない勇気も必要だと思います。

安田

そうなんです。社員の満足度とか、収入や労働条件がベストなところで、規模を止めちゃう勇気が必要。

久野

人を増やしても生産性の落ちない仕組みが、あいればいいんですけど。

安田

昔は人を増やせば増やすほど、生産性が向上したんですけどね。

久野

今は逆じゃないですか。人増えれば増えるほど生産性が下がって行く。

安田

ある一定のところまでは生産性がアップするけど、それを超えると逆に下がっていく感じですね。不必要な人材がどんどん増えていく。

久野

中小企業って、余計なことやりすぎなんですよ。

安田

余計なこと?

久野

儲からない仕事とかも結構取ってきちゃうじゃないですか。社長が。

安田

社員を遊ばせておくよりマシだと考えるんでしょうね。

久野

でもそういう仕事を取れば取るほど生産性は下がって、社員もやる気がなくなっていくんですよ。

安田

飛行機と同じですね。赤字だけど空席のまま飛ばすよりはいいという判断。

久野

機体を小型化した方がいいですけど。

安田

社員はそうもいかないですよ。 100人の会社って100部屋あるホテルみたいなもの。建ててしまったらどんなに安くても部屋を埋めざるを得ない。

久野

まさに今、それを考えなきゃいけない時代じゃないですか。それが働き方改革の意義だと思うんですけど。

安田

何から見直せばいいんですか?

久野

第一段階としては、何が儲かってるか儲かってないかを冷静に見極めること。

安田

赤字の仕事を仕分けるわけですね。

久野

今までは儲からない仕事も取ってきて、めちゃくちゃ労働時間も増えたわけじゃないですか。それがもう許されなくなる。

安田

とはいえ、黒字の仕事だけだと社員が余っちゃうでしょ。飛行機の空席理論でいくと。

久野

そうなんですけど、まずはそのラインを把握することが大事なんです。

安田

どの仕事が儲かっててどの仕事が赤字か。それ自体を経営者が把握してないということですね。

久野

把握してない経営者が多いですね。とにかく仕事を取ることを優先しているので。

安田

それでも成り立ってたんですから、ある意味すごいですよね。

久野

国を挙げて救済してきたんですよ。

安田

その結果どんどんデフレになっていったと。

久野

そういうことです。今や主要先進国最下位ですからね。生産性は。

安田

このままではジリ貧ですもんね。国家運営もままならない。

久野

はい。人口が増えない以上、一人当たりの生産性を高めるしかないんですよ。

安田

そのための労働法改革ですもんね。

久野

完全にそちらに舵を切りました。もう後戻りはできないです。

安田

ついてこれない会社は潰れてもいいと。

久野

そう認識した方がいいです。そして一刻も早く手を打つこと。手遅れになる前に。

安田

まずは赤字の仕事を把握して、それをなくしていくことだと。

久野

そうです。

安田

すると解雇しない限り労力が余りますよね。

久野

今の日本の法律では解雇できないです。だから黒字の仕事を増やすしかない。

安田

それが出来たら苦労しないんじゃないですか。

久野

そうなんですけど、やるしかないんですよ。なんらかの付加価値を生み出して価格を上げていく。

安田

それが本来の経営者の仕事だと私は思いますけどね。

久野

その通りなんですけど。ほとんどの経営者はやってない。

安田

「安い仕事をいかにこなすか」という努力ばかりしてきましたもんね。

久野

放っておいたら同じことの繰り返しですよ。そこに期限を設けたということ。

安田

中小企業には、あとどれくらいの時間が残されてるんですか?

久野

2年。長くて3年。

安田

もう迷ってる時間はないですね。

久野

はい。次のステップに進むしかない。この2~3年でチェンジできなければ、その先はさらに厳しくなる。



久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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