NTTが転勤・単身赴任の廃止を検討してるそうです。
私もニュースで見ました。
大企業って転勤や単身赴任が当たり前で、それと引き換えに高給や終身雇用が約束されてるイメージなんですけど。
それが常識でしたね。
ここを撤廃してしまうと、雇い続けるのが難しくなりませんか。
普通にやってれば転勤なんて必要ないですからね。日本の大企業はポストをつくるために全国に支店をつくり、役職をつくってきたので。
もう支店はつくらないってことですか。
今までのやり方だと支店を出せば出すほど儲からなくなるので。
それは転勤に伴う費用負担が大きいから?
それもありますし、余計な人材がたくさんいたんですよ。
ポストをつくるために増えていったってことですね。
そういうことです。
今後はどうなるんですか?ポストを得るための異動はなくなるってことですよね。
そのエリアで使えない人はもう上がってこれなくなると思います。
なるほど。
働く人の感覚も変わってきました。家族と一緒に過ごしたいとか、土日は家にいてワークライフバランスを優先したいとか。
ポストよりもプライベート優先だと。
転勤とかに対して強烈なストレスや拒否感を持つ人が増えてます。
なるほど。もう双方が望んでないんですね、転勤を。
会社側は二極化してますね。はっきり「ありませんよ」っていう会社と、「給料は高いよ。その代わりグローバルでどこでも行かせるよ」っていう会社と。
求職者が選べるってことですか。
入口をきっちり分けないと人も採れないし、やる気を出してもらえない。NTTにも異動させる部署はあるでしょうけど、基本はもう異動させないってことですね。
それで成り立つんですか。
「異動OK」って人と「異動はさせない」って人で、役割分担すれば成り立ちます。
異動OKの人ってどのぐらいいるんでしょう。
最近は地域限定社員がものすごく増えてますね。
やっぱりそうなりますよね。
労働契約書には必ず就業場所を書かなきゃいけないんです。たとえば多治見で契約すると「東京支店できたから行ってくれ」とは言えない。
強制じゃなければいいんですよね。
はい。だけど異動の話をすると「し〜ん」となりますね(笑)
収入よりプライベートの時間を優先する人が増えてるってことですね。
そういう傾向です。
だったら最初から大手商社や大手メーカーなんかに行かなきゃいいのに。
そうなんですよ。相手のルール無視して就職しようとする人が多過ぎるんです。
それで就職できるんですか。
世の中の雰囲気的に「従業員のライフにもフォーカスしなきゃ」って感覚なので。
伸び盛りのベンチャーには合わないですね。
会社の事情と求職者の事情がぐちゃぐちゃになってます。商社に入っても「転勤しません」って言ったり。
なぜ商社に入ったのか(笑)
小売り業なのに「日曜日休みたい」とかは普通にあります。
休みたくても休めないのが小売業なんですけど。
本当びっくりしますよ。日曜日のシフトに毎回休みを入れてくる人もいますから。
そもそも商社に入る人って「世界を飛び回りたい」って人じゃないんですか。
昔はそうでしたね。
それが嫌ってどういうことなんでしょう。
いいとこ取りがしたいんでしょう。「大手なら安心して働けるよね」って。
だけどそのビジネスモデルに伴う会社の事情に関しては、「知らん」ってことですか。
知らんとは言わないですけど「関われる範囲でお願いします」みたいな。
NTTほどの会社がなぜそこまで妥協するのか。採用に困ってないと思うんですけど。
NTTは戦略ミスだと思います。たぶん、あまりいい人材が採れてないんですよ。人材の質を上げたいってことで、変に妥協しちゃったんだと思います。
働く人の価値観に合わせすぎちゃったってことですか。
仕事の楽しさをアピールせずに労働条件ばかりフォーカスしてしまう。
採用でやってしまいがちな失敗ですね。
それで集めた人って本当に役に立つの?っていう。
仕事なんて大なり小なりデメリットがあるわけで。
そうですよね。
万人受けしようとしすぎですよ。仕事は楽しいし、休みは多いし、転勤はないし、みたいな。「これはあるけど、これはない」ってはっきり言えばいいのに。
求職者の多くは役満みたいな会社に就職しようとしてます。
そんな会社ないでしょ(笑)
そうなんですけど。ただ雇用ってすごい長期契約じゃないですか。
新卒だったら40年契約ですもんね。
だから気持ちも変化しますよ。40年も同じ気持ちでいるなんて、さすがに難しいんじゃないかと思います。
確かに。結婚したり子供ができたりしたら事情も感情も変わりますよね。
そうなんです。だからなるべくマイナス条件が少ないところを選んじゃう。
昔は「仕事だ」って言えば、家族もそれを了承してくれましたからね。
今は下手したら離婚問題になりますから。
やっぱ雇用期間が長すぎるんですよ。40年も同じ条件なんて無理です。
あとは「仕事が楽しい」って言っちゃいけないのも、労働条件アピールに拍車をかけてますね。
楽しいって言っちゃいけないんですか?
やりがい搾取みたいに見られちゃうから。
なるほど。家族にも言いにくいですからね。「俺は仕事が楽しいんだ」って。
家族には言えるでしょう(笑)
いやいや(笑)あんまり楽しそうだと「あなたは良いわね」って言われちゃうから。
「私はこんなに大変なのに」って(笑)
そうそう。「給料のために我慢してる」ぐらいが、ちょうどいいバランスなんですよ。
それはちょっと悲しいですね。
いろんな意味でワークライフバランスは難しいんです。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。