2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第194回「自分はどちら側?」
プロ野球選手のキャリア?
今すごく変わりつつあります。
へえ。それはどのように。
プロ野球選手って、引退したらテレビ解説とか球団のコーチとか、だいたいプロ野球に戻るでしょ。
プロ野球の周りで食べてますよね。
それが変わりつつあって。プロ野球選手が社会人チームのコーチを引き受けたり。アドバイザーになったり。今すごく増えてます。
昔はそういう人がいなかった?
昔はめったになかったんですよ。
ルールが変わったんですか。
いまはプロアマ規定も昔ほどうるさくないし。
なぜ増えたんですか。
プロ野球選手も「型にはまったキャリアじゃ古い」と思っているんじゃないですか。
なるほど。プロ野球の世界だけだと視野が狭くなりますもんね。
狭いですよ。だから独立リーグの球団経営する人が出てきたり。一流の社会人チームで選手を育てることをやったり。キャリアも複線化してきました。
やっぱり野村さんは最先端だったんですね。シダックスの監督になったり。またプロに帰ってきたり。
そうなんです。凄いんですよ、あの方は。「仕事ができる人は必要とされる」の典型ですね。
ちゃんと人を育てられますしね、野村さんって。
はい。
いろんな経験をした人のほうが、プロ野球界でも飛躍する可能性が高いでしょうね。
おっしゃる通り。
メジャーなんかそうですもんね。MBA取った人が役職についてたり。
自分で球団オーナーになるような方も多いですよ。
確かに。選手がオーナーになりますよね。
大企業のサラリーマンも参考にしてほしい。
大手の50代は時間的にも金銭的にも余裕ありそうなのに。
大企業は快楽が多いじゃないですか。
快楽?
丸の内のインテリジェントビルで、皇居を見下ろして会議して。書類1個つくることもなくアシスタントと部下を呼べば仕事は動くし。
それは気持ちいいでしょうね。
「おい!」なんて言うとすぐパッと部下が来て。「これとこれとこれ」って指示しておけばきれいに出てくる。
大手ならではですね。
夜は会食で六本木や銀座に行けば「えーっ!安田さん、三井○○なんですかぁ~!」なんて言われて。「ああ、まあ、大したことないけど」なんて(笑)気持ちいいじゃないですか。
気持ちよさそう(笑)
だけどこれをずっとやっていると、40代50代で間違いなく劣化します。
そりゃそうですね。
毎日決まりきったことしかしないから。
プロスポーツの場合は引退が決まっているじゃないですか。
はい。長くても40過ぎぐらい。
終わりが決まってるから考えやすいですよね。社員ではなく個人事業主だし。元々大手の社員とは意識が違う気がします。
大手のサラリーマンも40ぐらいに定年を決めないと。ちがう経験をしていかないとどんどん劣化する。
劣化している自覚はあるんでしょうか。
いや。ないほうが多いんじゃないんですかね、圧倒的に。
みなさんあまり危機感を持っていない?
ないない。人ごと。すべて人ごと。
高齢者ドライバーと同じですね。事故を起こすまでは「俺は他のやつとは違うから」って。みんな思ってる。
「俺は運転うまいし」なんていってね。
「若いやつより俺うまいから」みたいな。そんな感覚なんでしょうね。
間違いない。
スポーツなら劣化が見えるじゃないですか。打てなくなったり守れなくなったり。ああいう明確な境目がないですもんね。
そうなんです。それが終身雇用のいちばん残酷なところで。
ある意味ハッピーな老後なんでしょうけど。残念ながら企業にもうそんな余裕がないですもんね。
80年代までは大企業にいれば100パーセント安心でした。けど90年代以降は大企業勤務でもリスクがある。
本人たちはリスクを感じてないんでしょうね。
フリーランスのリスクと大企業勤務45歳以上のリスクっていったら、僕はもうどっこいだと思ってます。
「まずは大企業に入っておけ」っていうのが我々世代の常識でしたけど。
大企業に入るなら2・3年で十分です。自分でベンチャーを興したらいいんです。
なるほど。
で、その会社を大企業に売って事業部門長をやったり。そういうキャリアがこれから出てくると思う。
一旦やめてまた戻るってことですか。
将棋の成金みたいなもんですよ。
歩からいきなり金になっちゃうと。
そう。若いけど「ビジネス戦闘力は俺がいちばん上だ」って自負があるから。平気でバッサバッサいく。そういうキャリアが出てくる。
上の人たちにアドバイスするとしたら「1回ベンチャーに行ってこい」ってことですか。
とにかく1回修羅場を経験したほうがいい。連続性を1回断って市場価値を見直したほうが。こんなアドバイスしても聞く人はいないけど。
必要性を感じてないでしょうね。
「なに言ってんだよ」みたいな。それこそ「人ごと」ですよ。「俺は関係ないけど、お宅どうぞ。そっちのほうがいいんじゃないですか?」みたいな。
なぜ人ごとでいられるんでしょうね。
もうその生活が長過ぎて。これが永遠につづくと思ってるんですよ。
辞めたいとは微塵も思わないですか。
丸の内の新しいビルに行ってみてください。もう、やばいぐらいゴージャス。きれいだし、天井高いし、眺めはいいし。受付の人はキレイだし。
やっぱり大企業ってお金あるんですね。
ありますよ、そりゃ。内部留保たくさんありますから。
でも自分のお金じゃないですからね。
そうなんです。けど「自分は豊かな側の人間だ」って勘違いしちゃう。
いずれ「そっち側じゃなかった」と思い知らされる日が来ますか。
そう。ある日突然ね。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。