ファーストリテイリングの賃上げ、すごいですよね。
すごいですよ。
アパレル業界の経営者はみんなびびっているそうです。いい人がどんどんユニクロに流れちゃうんじゃないかと。
いいことだと思います。
40%ぐらい上がるという話で。新卒の初任給がなんと30万になる。
もともとアパレルの中でユニクロは高い方だったんです。もうこれで他の会社と圧倒的な差がついてしまいました。
久野さんから見るとどうなんですか?このUNIQLOの一手は。
すごいの一言ですよ。そもそも若い労働者は希少なのに日本企業は安く雇いすぎ。
今までが安すぎたと。
終身雇用はもう終わってるのに、終わってないかのように安く買い叩いて。
もう終わってるんですか?終身雇用。
定年まで給料が増え続けるなんて、もう幻想ですよ。50代にピークが来る設定も行き詰まってますし。
給料が高い50代はリストラ対象ですもんね。
それがもう若い人にも分かっていて。たぶんユニクロみたいな会社に優秀な人が集中していきますよ。
初任給が高い会社ってことですか。
初任給を含め給料が高い会社。ユニクロはグローバル企業なので、今の給与体系では優秀な外国人は採れないという判断でしょう。
世界標準に合わせたってことですか。
そうです。世界標準でいい人材が採れるように高くした。
でも日本は解雇できないじゃないですか。実質的に終身雇用が続いてますよ。
雇用は維持されても給料は右肩上がりじゃない。終身雇用の定義は「60まで雇う」ということではなく「我慢すれば将来の給与が増える」ってことなんです。
それが終身雇用ですか。
その暗黙の了解があることが日本版終身雇用。それがもうなくなってる。
若いうちは安く抑えてるのに、歳をとった後も増えないと。
そうです。後半が増えないのになぜか若い人は安く使える。だけどもう限界だよねってことで、「実力に見合った給与体系にしてく」というメッセージだと思う。
ユニクロがやってることは、すごく真っ当だと。
そう思います。
そもそも若いときに我慢して「年とってからもらう」っていびつですよね。
部活の球拾いみたいな。1年生の間はとにかく我慢して下積みとか。
意味ないですよね。
意味ない。僕は我慢しましたけど安田さんは我慢できなかった(笑)
はい(笑)卓球部で「球拾いが終わったら来ます」って言ったら、先輩に殴られました。「球拾いで、どうやってうまくなるんですか」って聞いたら、また殴られた。
今はその質問に「ちゃんと答えなきゃいけない」ってことですよ。
素質があれば特別扱いして、すぐに試合にも出られたり。
そうしないと優秀な人が来なくなります。
でも30万の初任給はすごいですよね。
ユニクロは元々利益も出てますし、ここから値上げしていくみたいです。
値上げすると顧客が離れると言われてますけど。
ユニクロは付加価値が高いので。値上げしても売れる自信があるんでしょうね。大手にこれをやられると中小アパレルは大変だと思います。
同業者にとったら迷惑極まりない(笑)
そう思います。うちの田舎(多治見)にAmazonが来たんですけど。Amazonって時給が高いんです。その影響で周りの時給上がっていきました。
これを機に他の会社も上げざるを得なくなる?
ユニクロみたいな会社がやると、日本全体に影響が出ます。
日本全国に店舗があるし。日本人はみんなユニクロ着てるし。
恐ろしいですよ。Googleが給与高いって聞いても、ちょっと別世界の話って感じじゃないですか。
確かに。ユニクロはすごく身近ですよね。パートさんもいっぱいいるし。
おそらくパートは減らしていくと思います。無人レジも革新的ですから。
省人化できるところは省人化して、人が必要なところは能力の高い人を引っ張ってくると。
はい。すごく的を得た戦略です。
経営者の意見は二極化してるみたいですよ。「自社も上げなくちゃ」という意見と「上げようがないぞ」という意見と。
上げざるを得なくなると思います。最低賃金も5%近く上がると思うし、政治的な圧力もありますし。
これから全ての企業が賃上げせざるを得なくなると。
はい。だけど上げた分を価格に転嫁できない会社はつぶれる。ここが勝負の分かれ道じゃないですか。ここ1年ぐらいで。
この1年で?
法律で最低賃金を上げるのは時間がかかるんです。けど今回のユニクロでそのスピードが早まりました。
岸田さんがいくらお願いして「必ず給料を上げさせます」とか言っても、そんな権利ないですもんね。
そうなんですよ。だけどユニクロのように大きな会社が40%も上げると、めちゃくちゃインパクトがあります。
しかもいきなり初任給30万ですからね。
追随する企業がどんどん出てきて、あっという間に20万円がめちゃくちゃ安く感じますよ。
なんと。
新卒採用も「30万からスタートです」みたいな。他社が追いつくのに何年かかるんだろう。
失われた20年がなければ、それぐらいにはなってたはずですもんね。
毎年5000円上がってれば10万円ですから。
20年前と初任給が変わらないって、考えてみたら異常ですよね。
私が社会人になった時と変わってないですもん。
30万ってすごく高く感じるけど、感覚が遅れちゃってるだけだと。
柳井さんは世界を見てるから。柳井さんの感覚では普通なんじゃないですか。
他社は本当に追随しますか?
力のある大手と、力のある中堅企業が追随するでしょうね。ガンガンやると思う。
上げないで済まそうという企業はどうなりますか。
確実に優秀な人がいなくなっていくでしょう。
初任給で10万も差があったら勝負にならないですね。でもビジネスとして成り立つんですかね。
成り立つから恐ろしいんですよ。もともと付加価値の高いビジネスなので。
逆に言うと、そういう会社じゃないと残れない?
稼げるモデルじゃないと「人を使っちゃいけない時代」になる、ということです。
久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。