第13回 値上げこそが社長の仕事

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第13回 値上げこそ社長の仕事。

安田
最近賃上げのニュースを耳にすることも増えていますよね。でも単純に考えて、社員の給料を増やすためには会社の売上をアップさせる必要があるじゃないですか。

鈴木
ええ、当たり前のことですよね(笑)。
安田
ですよね? でも今の世の中って「安売り」が主流じゃないですか。安売りしていても売上はアップしませんよね。つまり社員の給料も上げられないと思うんですけど。

鈴木
売上アップの方法は、「客単価を上げる」もしくは「客の数を増やす」しかありませんが、後者を狙っているんじゃないですかね。安売りをすることでより多くのお客さんを呼び込もうとしている。僕も昔やったことがありますけど。
安田
なるほど。販売数を増やすことでトータルの売上も増やす狙いということですね。でも、単価を下げて販売数を増やすって、現場は大変なんじゃないですかね。社員さんが疲弊しちゃいますよ。

鈴木
そうなんですよね。販売数が増えれば当然客対応も増えるわけで、それをさばくだけで大変です。さらに言えば、安さや無料を売りにしていると、客層が悪くなるんですよね。
安田
ああ、それはわかります。安さにつられてくる人に限って、なぜか無茶な要望が多いんですよね(笑)。

鈴木
まさにそうなんです(笑)。そもそもそういう人はリピート客にもなりづらい。だから安売りして顧客数が増えたところで、結局会社にはそれほどメリットがないわけです。
安田
そうでしょう? 私もそう思うんですよ。でも世の中にはなぜか安売りから脱却できない社長さんが多いように思います。そのあたり、鈴木さんはどう思います?

鈴木
う〜ん、正直、わからなくもないかな。先ほども言った通り、実際ウチも値上げしたことがあったんです。でも社員からは「こんなに高くしたら売れない」って声が続出して、ちょっと二の足を踏んだ経験がありますから。
安田
でもやっぱり、会社の存続のためにも、良い人材を継続的に採用していくためにも、値上げは必須なんですよ。そこはある意味、割り切らなきゃいけない部分だと私なんかは思いますね。

鈴木
ええ、仰る通りだと思います。もちろん「高いと売りづらい」という現場の気持ちも理解できます。でもさっき言ったように、安さを追求しても結局何も残らないんです。誰も幸せになれないというか。
安田
そうですよね? それなのにいまだに多くの社長が安売りをしているじゃないですか。それって、本当に会社のためになっていると思って安売りしているんでしょうかね?

鈴木
どうなのかなあ…。そもそも社長自身に「値上げして売れなくなったらどうしよう」という恐怖があるのかもしれませんね。競合他社が安く売っているのに自分のところだけ値上げするわけにはいかない、とか。
安田
ああ、なるほど。とりあえず安くすれば、たくさん売れているように見えると。要は、目先の利益だけしか見ていないということなんでしょうね。

鈴木
そうそう。「値段を下げる」って、施策としては非常にシンプルで簡単ですもんね。それを買うお客さんは絶対喜ぶわけですから、あまり深く考えずに実行できますし。
安田
ええ、安くするのは楽なんだと思います。逆に言えば、高くするのは簡単じゃない。それまでよりも高い値段で売ろうとすると、「なぜ値上げしたのか」「今までとはどこが違うのか」を説明する必要が出てきますから。

鈴木
「とりあえず値上げしました! 便乗値上げです!」というわけにはいきませんからね(笑)。
安田
笑。さらに言えば、値上げしたことで逆に売上が下がってしまうことも考えられる。そういう意味でも社長は大変だと思います。でも、それこそが社長業をやる上で引き受けなくてはいけない部分だと思うんですよね。

鈴木
まさに。社長は「決断すること」こそが仕事なんでしょうね。
安田
まさにそういうことですよね。

鈴木
「決断」と似た言葉で「判断」という言葉がありますが、「判断」は社員にもできることなんです。過去の事例などから「これが正しい」「こっちがベターだ」と思う方を選ぶのが「判断」。
安田
なるほど。ロジックや過去の事例に照らして、合理的な方を選ぶのが「判断」だと。では「決断」はどうですか?

鈴木
「決断」は、むしろ非合理的な方を選ぶことなのかもしれません。大多数の人が選ばない方を選択・実行する。そしてそれは、社長にしかできないことなんです。
安田
ああ、おもしろいですね! まさに値上げもそうです。大多数は値上げに反対でしょうが、あえて少数派の意見である値上げを「決断」する。それが社長の仕事なんですね。

鈴木
そうだと思いますね。だから社長は、自社商品やサービスを高く売れるものに変えていくことを「決断」しないといけないんです。
安田
なるほどなるほど。高く売ると「決断」したからこそ、独自性を編み出して他社の追随を許さないような商品を生み出す必要がある、ということですね。でもそれにはかなり頭を使わないといけませんよね。

鈴木
そういう風に考えていくプロセスが苦手な人が多いから、結局、安売りという「判断」をしてしまうのかもしれないですね。
安田
ところでもうずっと日本経済は沈んだ状態ですが、今後、値上げできない会社は淘汰されていくと言われているそうです。いま全国に中小企業は400万社以上あると言われていますが、何割くらいが値上げに踏み切ると思いますか?

鈴木
聞いたところによると、どうやら2割もないらしいですよ。
安田
そんなに少ないんですか?! やっぱり中小企業の社長さんたちは値上げすることが怖いんでしょうかね。

鈴木
そもそも僕の会社がある東海エリアは特に、製造業の下請け・孫請け会社が多いから、構造的に値上げがしづらいんですよね。元請けの大企業は値上げできていても、それが下請け・孫請けまで降りてこないといいますか。
安田
でもそこで「値上げさせれてくれないんだったら、取引していただかなくて結構です!」くらい言えるようにしたいですよね。

鈴木
確かにそうですね。自社に独自性があれば「値上げされても取引を続ける以外にない」って思ってもらえるはずですから。
安田
その通りだと思います。値上げに向けた頑張りも含めて、社長は頭に汗をかかなくてはいけない仕事ですね。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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