7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第46回「業界が消滅するとき」
大企業には、いろんな部署あるじゃないですか。営業部とか企画部とか人事部とか。
はい。
「ここのトップがいちばん力ある」っていう部署は、決まってるんですか?大手の場合。
わかりやすいのは社長直轄、もしくはそれに近い部署ですね。次の社長が選ばれるのは、だいたいここの担当役員からです。
それは、その社長の出身部だったりするんですか?
割とそこから出ることが多いです。たとえば商社で言うと、経営企画や事業投資を決定する部門がいちばん強いと思います。
事業投資部門ですか。
はい。で、事業投資部門は多くは社長直轄だから、そこに自分が配属されたら「俺は本線いってるな」って思うでしょうね。
なるほど。
そのカンパニーの中の事業投資を決める部門。商社であれば、ここが中心。
でも「先代社長の事業投資で失敗して……」みたいな話、最近多いじゃないですか。
まあ、巧みにゴマカシますけどね(笑)
ゴマカスんですか?
もちろん(笑)
どうやってゴマカスんですか?人のせいにするとか。
それもよくありますね。
あるんですか!
後継社長に譲って「アイツが駄目なんだ」みたいな。
「それ、アンタが始めたんでしょ!」って反論しないんですか?
そういうのは抑え込まれます。「いまの社長がだめなんだ、無能なんだ」みたいに。
ひどい。
こうやって院政が始まるわけですよ。大企業って大概、社長より会長のほうが力持ってますから。
そうなんですか?
だいたい日本ってそうじゃないですか。権力の二重構造が好き。
確かに。好きそうですね。
たぶん昔からですよ。将軍よりも実権を握っている人とか。自民党でも「総理より力を持ってる実力者がいる」という二重構造。
自民党はずっと、そういうイメージですよね。
神輿と、その神輿を指示して担がせる人はまた別みたいな。日本人がとても得意な権力構造ですよね。
大企業も同じですか?
そうだと思います。アメリカ人が見ると訳わかんないでしょうね。
ややこしく見えるでしょうね。
「CEOはおまえだろ?なんでいちいち意向を気にしなきゃいけない人がいるんだ?」と。
本来いないはずの権力者が隠れてると。
商法上は、ただの取締役。だけど実は最高顧問です、みたいな。
ややこしい。ところで大企業の人事部ってどうなんですか?力ありそうですけど。
力のある会社と、人事が傍流っていう会社が、はっきり分かれてますね。
たとえば、どういう業種ですか?人事が力もってるのは。
基本的に製造業は、人事部って出世ポジションですね。
そうなんですか。
はい。大手製造業は人事を経由するのが出世コース。上げる場合、必ず1回人事をやらせる。
若手社員の評価って、人事部が決めるんですか?
そのとおりです。勤務評定を全部握っている部署なので。一方で、商社は人事がそんなに力をもってない。
やっぱり経営企画とか事業投資部門が主流ですね。
大手の社長って「3年ぐらいで交替する名誉職」ってイメージですけど。実際どうなんですか?
大手の社長もだいぶ若返りましたね。この10年で。
そうなんですか?
はい。激務なんだと思います。
激務ですか。
いや、激務ですよ。だって判断間違えたら倒産するんですよ。
まあ、そうですね。そういう時代ですもんね。
昔みたいに安泰って言えないじゃないですか。いつどうなるか分かんない。
何が変わっちゃったんですかね?
まず、1つの事業で永続して収益が上がらなくなってる。そして、競合が思わぬところから出てくる。
たしかに。ぜんぜん違う業界から出てきますもんね。
ぜんぜん違うところから「えーっ!?」みたいな。「こんなところから来るのか!」と。
むかしは、商社だったら商社どうしの争いでしかなかったですもんね。
今は商社を飛び越えて、国籍とかもぜんぜん関係なく、たとえば暗号通貨かもしれないし、GoogleとかAmazonみたいな存在かもしれない。
どこから来るか分からない。
ワンクリックで調達も可能になったら「いらねえじゃん商社」みたいな。
確かに。
メガバンクもそうですよね。決済方法が変わったら「銀行がいらない」って話になるかもしれない。
「地銀の7割が潰れるかもしれない」って言われてますよね。
いやあ、もう9割ぐらい、無くなると思いますよ。
本当ですか?
逆に銀行って、社会にとってなぜ必要なんでしょう?
うーん。貯金とか両替もしてくれますけど、基本的には「事業資金を貸してくれる」ってことなんじゃないですか。
そうですよね。でも独自の審査基準もないし、事業の育成を踏まえての融資とか、そんな能力ないでしょ。
でも、生き残ることを考えたら、そこのスキルを磨くしかないですよね?
おっしゃる通りなんですけど、さっき言った「想定もしない競合」が出てきて、もう間に合わない。
もうすでに競合が出てきてると?
クラウドファンディングを通せば、事業資金も集まるじゃないですか。
でも日本の場合、有名人でもない限り、億単位の資金は集まらないですよ。
たとえばIT・Web業界って、いま華僑みたいな制度ができてるんですよ。
華僑みたいな制度?
ネットで成功して、億万長者どころか百億万長者までいるじゃないですか。
いますね。
そういう人たちが、みんな後輩に出資するんですよ。
それはどういう仕組みなんですか?
渋谷のランチミーティングですね。
ランチ?
前にもちょっと触れましたけど、先輩に起業を相談する。ランチに来いといわれる。「石塚もそろそろ起業か。おまえ、ここどうするんだ?うんうん。分かった。」となる。先輩はおもむろに関係者にLINEする。
出資者を集めるってことですか?
みんな渋谷周辺に会社あるから。LINEでランチ召集されて集まる。そこで「コイツオレの後輩で石塚っていうんだよ。今度会社やるんだ。3人で出資しない?」となる。
そんな簡単に?
起業っていうと1人のカリスマが起ち上げて、というイメージですが、今はまったく違うんです。
えっ?違うんですか?
「ゴレンジャー方式」といいますか(笑)「社長が赤レンジャーだったら、CFO誰つけて、商品企画はコイツ、システムはコイツにやらせて」とチームが組成される。そこに「じゃあ3億出資するから行け!出撃!」みたいな(笑)
すごい。
ここに銀行が介在する価値もなければ、ベンチャーキャピタルでさえ危ういじゃないですか。
なんで、そのチームに銀行も入らないんですか?
バカみたいですけど、銀行って営業に出るときにスマホすら持てないんですよ。
え!そうなんですか?
スマホ持ってない。そして銀行はメールすらない。
メールもないんですか!
だから、もう事業モデルとしてかなり厳しい。終焉迎えてるかもしれない。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。