変と不変の取説 第44回「義務と権利の境目」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第44回「義務と権利の境目」

前回、第43回は「目的のないゲーム」

安田

不登校の小・中学生が14万人もいるって、知ってました?

数までは知らなかったですけど、増えていることは知ってます。

安田

過去最多らしいですね。子どもの数はどんどん減ってるのに、不登校の数はどんどん増えてる。

ある意味、健全化してるんじゃないでしょうか。

安田

健全化ですか、不登校が?

はい。

安田

これって親が行かせないんですか?

子どもの意思だと思いますよ。

安田

私の知り合いは「子どもが“学校行きたくない”って言うから行かせてない」って言ってました。親も不登校を受け入れるようになってきたってことですか?

無理してまで行かせようとしないんでしょうね。

安田

それは自殺とか、そういうのがあるからですか?

選択肢が増えたってことじゃないですか。フリースクールがあったり、ゆたぼん君みたいに何かやる子が出てきたり。

安田

でもゆたぼん君も、批判する人がめっちゃ多いじゃないですか。

「学校は絶対に行っといたほうがいい」みたいな。

安田

そういう意見の方が多いのに、現実として行かない子供は増えてる。だって14万人っていったら結構な数ですよ。一大勢力ですよ。

まあ、その中には「邪魔くさいから、サボりで行かへん」みたいな子もいるでしょうけど。

安田

そういう子も増えてるんですかね?

「うつ病」が世の中に受け入れられてくると、単なるサボりで働かない人も増えていくでしょうね。

安田

「行かない」という選択肢が出てきたってことですかね。僕ら子どもの頃は「学校に行かない」なんて選択肢はなかったじゃないですか。

なかったですね。昔は。

安田

それってネットの影響ですか。「あ、行かない人もいるんだ」みたいに広がっていく。

そういう露出は増えましたね。テレビでも不登校の特集で子が出演してたり。

安田

現場はどうなんですか?不登校だったら先生が家まで迎えに行くとか、友達みんなで訪ねていくとか。そういうことはもうしない?

校長先生によりますね。

安田

そうなんですか。

はい。たとえば温かい学校づくりをしているところは、不登校自体が少ないです。

安田

行かなくなる理由って何が多いんですか?授業についていけないのか、いじめなのか、単に嫌なのか。

調査したわけじゃないですが、昔みたいな「強制レールに乗れ」みたいな社会的エネルギーが少ないんじゃないですか。

安田

それは強制的にレールに乗せたあと責任がもてないから?親も自信をもって「学校さえ行っとけば、おまえ大丈夫だから」って言えない。

昔は大学に行けなかった親がたくさんいたわけですよ。学歴で苦労して「お前は大学行っとけ」って言えた。子供もその期待に応えて「大学行こう」みたいな。

安田

今は大学に行った親がたくさんいますもんね。

「大学行ったけど何もなかったわ」とか「大したことないわ」って、わかってる親たちがいっぱいいるので。

安田

不登校になると学歴ってどうなるんですか?「小学校中退」とかになるんですか?

なるんじゃないですか。

安田

義務教育なのに?

まあ大検とか取れば大学は受けれますけど。

安田

小学校中退でも受けられるんですか?

受けられると思いますよ。

安田

でもそれで大学受けられるんだったら、学校行く必要ないじゃないですか。

そうなんですよ。

安田

高校の卒業資格みたいなものですよね?大検っていうのは。

そうです。

安田

それで高校の卒業資格を得れるんだったら、学校嫌いの子にはそっちのほうがぜんぜんいいじゃないですか。

学校は友達つくったり恋愛したり、青春を謳歌する場としても機能するじゃないですか。

安田

そのために行く価値はあると?

というか「それで行きたいんだったら、行ったらいいんじゃないの?」っていう。「それが必要なければ、べつに行かんでもええんちゃう?」って話を私はしますね。

安田

勉強自体には「あんまり価値ないよ」ってことですか?

勉強の内容というより、勉強スタイルがイマイチですね。いい学校もありますけど。

安田

あるんですか?そういう学校。

ごく一部ですけど。やろうと思ってもできる先生がいないんですよ。

安田

でも基本的には、文科省の言われたとおりに指導しないといけないんでしょ。

そうなんですけど、自分の裁量で好きにやってる先生も中にはいます。

安田

そんな人もいるんですか?

はい。ごく稀ですけど。

安田

それは学校も容認してるんですか?

そうです。ある程度決まったカリキュラムはやりながら、遊びの部分をつくってみんなに楽しませる学習とか。

安田

たとえば東京にもそういう学校はあるんですか?

麹町中学校とか。あそこは宿題がないとか、担任の先生がいないとか、強制がないですよね。

安田

ちなみに、江戸時代の寺子屋にも不登校とかあったんですか?

寺子屋は来なくても不登校とは言わないですね。強制じゃないので。

安田

なるほど。強制だから不登校という扱いになるわけですね。

そう。義務教育なので。

安田

でも、ゆたぼん君いわく「子どもは行く権利があって、親は行かせる義務はあるけど、子どもには行く義務はない」って言ってましたよ。

その通りですね。子どもには行かない権利もある。だから捕まらないじゃないですか。不登校でも犯罪にならないので。

安田

確かに犯罪にはならないですよね。ちなみに泉さんの予想では不登校はもっと増えていくと思いますか?

増えると思います。どこかでピークを迎えて、1回パンとはじけるところがあって、みんな行かなくなる。

安田

みんな行かなくなる?ストみたいなもんですか。

そう。全ストみたいなのがどこかで起こる。

安田

もしそうなったら学校はどうなるんですか?

要求を聞かざるを得ないですね。

安田

子供たちの? 「宿題をなくせ!」とか?

「もっと面白い授業をしろ!」とか。

安田

なるほど。そうなったら教育は根底から変わりますか?

それで変わらなかったら、組織自体がなくなるでしょうね。

安田

なくなる?

国鉄がなくなったように“JR化”するんじゃないですか。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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