自分の首を絞める「節約志向」〜お医者さんは、なやんでる。 第155回〜

第155回  自分の首を絞める「節約志向」

お医者さん
お医者さん
おいおい…事業撤退ってどういうことだ。電カルの保守管理は別の業者に頼んでくれだって?
お医者さん
お医者さん
そんなこと急に言われても、誰に声をかけたらいいのやら。だいたいこんなIT化全盛期の中、なぜ撤退なんか……儲かってしょうがないだろうに。
IT技術者、特に医療業界のIT技術者は、確保がどんどん難しくなっていますからねえ。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
いや、なんでそうなるのだ? システム化だDXだとこれだけ言われているんだ、仕事はいくらでもあるはずじゃないか。……って、あなたは一体?
初めまして。ドクターアバターの絹川と申します。お医者さんの様々な相談に乗りながら、「アバター(分身)」としてお手伝いをしている者です。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
へぇ、医者の相談にね。そういうなら私の質問にもぜひ答えてもらいたいものだ。
医療業界のシステム化が進む中、なぜIT技術者の確保が難しいのか、という件ですね。まずもって、あらゆる業界でIT技術者の需要が高まっているという背景があります。それに供給が追いついていないと。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
いやそれはわかるがね、今まで電カルの管理を頼んでいた業者は「事業撤退」すると言っているんだよ。技術者の確保が難しいのはわからなくもないが、需要があるなら事業としては成り立つじゃないか。
ええ、そこがポイントなんですが、医療業界のITって「単価が安い」んですよ。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
え? そうなの?
そうなんです。端的に言って、あまり儲からない。世界的な物価の高まりもあって、事業としてなかなか成り立たなくなってきているわけです。お付き合いのあった業者さんが撤退するのも、そういう理由だと思いますね。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
そんなことを言われても、「はいそうですか」と納得できるはずないだろう。だいたい、責任感がないよ。一度やると言ったことは、最期までやり遂げないと。
仰ることはわかりますが、現実的に厳しいものは厳しいんです。事業が成り立たないということは、社員、つまりIT技術者の給与もあげられない。一方で、先ほどお伝えしたようにIT技術者の需要自体はあらゆる業界で高まっている。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
む……つまり、彼らは医療業界を辞めて別の業界に転職していくと?
仰るとおりです。頑張って働いても給与の上がらない医療業界から、高い給与がもらえる別業界へと行ってしまうんです。現場での作業が半ば必須となっている医療と違い、別業界はフルリモートもOKだったりして、条件の良さはもはや比べるまでもない。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
いや、そうは言ってもだな、我々は保険診療で喰っている人間だよ。自分たちで儲けの値段を決められないわけで、そんなにジャブジャブお金を使えるわけじゃないんだ。
ええ、私も医療業界が長いのでそのあたりの事情はよくわかります。金額は国が決め、病院に来るかどうかは患者さんが決める。そういう構造なだけに、電カル管理費などの経費はなるべく安く抑えたいですよね。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
そうだよ、その通りだ。我々は言わば社会貢献で仕事をしているわけで……
私もそう思いますよ。でも現実問題として、先生たちの「節約志向」がIT技術者の流出に繋がってしまっているわけです。技術者の立場で考えれば、先生たちの志向に従う理由はないわけですから。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
……ぐぬぬ、じゃあ一体どうしろと言うのだ。
まずはとにかく「節約志向」から「投資志向」に変えることが重要です。自由診療など、自分たちでルールを作れる商売を始める。そうすれば収入もコントロールでき、やがて技術者が喜んで仕事をやりたくなる条件で発注もできるでしょう。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
! なるほど。出ていく金を減らすことではなく、入ってくる金を増やすことを考えるということか。
そういうことです。世間で言う「付加価値」を手に入れるということです。私もアドバイスしますから、一緒に頑張りましょう!
絹川
絹川

 

医療エンジニアとして多くの病院に関わり、お医者さんのなやみを聞きまくってきた絹川裕康によるコラム。


著者:ドクターアバター 絹川 裕康

株式会社ザイデフロス代表取締役。電子カルテ導入のスペシャリストとして、大規模総合病院から個人クリニックまでを幅広く担当。エンジニアには珍しく大の「お喋り好き」で、いつの間にかお医者さんの相談相手になってしまう。2020年、なやめるお医者さんたちを”分身”としてサポートする「ドクターアバター」としての活動をスタート。

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