第28回 「種」と「個」の寿命

この対談について

健康人生塾の塾長にしてホリスティックニュートリション(総括的栄養学)研究家の久保さんと、「健康とは何か」を深堀りしていく対談企画。「健康と不健康は何が違うのか」「人間は不健康では幸せになれないのか」など、様々な角度から「健康」を考えます。

第28回 「種」と「個」の寿命

安田
前回、「健康寿命」と「平均寿命」の差が10年あるというお話を伺いました。

久保
そうですね。最期を迎えるまで寝たきりの状態が10年ほど続くという。
安田
久保さんは、延命措置を受けながら生き続けるのは嫌ですか?

久保
私個人としては、できることならそれは避けたいと思っていますね。
安田
私も延命反対派です。医療現場にいるお医者さんや看護師さんたちに聞いても、自分自身が延命措置を受けるのは絶対に嫌だって言っていますね。

久保
ただ、自分の家族がそういう状態になったとき、延命をしないという判断をするかどうかは、また違う価値観が出てきそうです。
安田
そうですね。たとえば家族が急に倒れて動揺しているところに、医者から「このまま放っておいたら死にますよ。いいんですか?」なんて言われたら、「延命してください」って言う人は多いでしょう。

久保
そうでしょうね。たとえ本人から「延命はしないでくれ」と言われていても、いざその立場になってしまうと判断に迷うと思います。私は父が危篤の時に「延命はしないでくれ」と伝えられましたが。
安田
そうだったんですね。そもそもこの「延命」って、寿命は長いほうがいい、長生きするほうがいい、という考え方からきていると思っていて。

久保
確かにそういう価値観はあるでしょうね。
安田
やっぱり寿命は長い方がいいんでしょうか。

久保
うーん、どうなんでしょう。人間も動物も、ある一定ラインで寿命は決まっている。で、それを全うするのが普通のことだと思うんです。だからそのラインを超えたから「すごい」と言われるのは、ちょっと違う気もしていて。
安田
とは言え昔から、人間は長寿や不老不死に関心を持ち続けています。前回のお話にもありましたよね、人間はそもそもMAX125歳まで生きられそうだと。それを聞いた多くの人は、ポジティブな印象を持つんじゃないでしょうか。

久保
そういうもんですかねぇ。私はあまり長生きしたいとは思わないので…(笑)。
安田
私も同じです(笑)。でもどうしてこんなに多くの人が長生きをしたがるのか。それはきっと「種」としての命と「個」としての命をごっちゃにしているからなんじゃないでしょうか。

久保
なるほど。人類全体としての視点ではなく、自分個人の視点だけで考えているんではないか。そういうことですか。
安田
ええ、そうです。こんな話をご存知ですか? 氷河期に大型恐竜は絶滅したのに、なぜ哺乳類は生き残れたのかという話なんですが。

久保
いえ、どういう内容なんでしょう。
安田
大型恐竜の寿命はすごく長かったらしいんです。一方で、当時の哺乳類の寿命は短く、とにかく早く死んでしまっていた。一見すると、生物的には恐竜の方が優れていて、哺乳類は弱いように思える。

久保
確かにそう見る人は多いでしょうね。
安田
でも、短いスパンで世代交代が起こるということは、それだけ「種」が進化するチャンスが増えるんです。進化のスピードが速ければ、環境への適用もしやすくなる。そういう意味では、寿命の短い哺乳類の方が「種の保存」という意味では有利なんです。

久保
確かに環境に適応すれば、生き残れる確率も上がりますからね。
安田
そうなんです。逆に恐竜のように個の寿命が長すぎると、なかなか世代交代が起こらない。それって種が生存していくには、かなり危機的な状況なんですよね。

久保
なるほど。そう考えると、個の寿命は短い方がいいとも言えますね。ますます人間の「長生きしたい」という感覚が特殊なものに思えてきます。
安田
そうですね。子育てを終えたら死んでいく動物、わりと多いですもんね。

久保
はい。あえて子に食べられるという動物もいるぐらいですし。きっとそれは「個」よりも「種」が優先されている証拠なんでしょうね。
安田
「自分が長生きしたほうが子どもや孫も喜ぶ。だから長生きすべきだ」と思っている高齢者も多そうですけど。

久保
まぁ子どもたち側も、「経済的な援助もしてもらえる」「孫の世話も頼める」という意味で、長生きしてくれることを望んでいるのかもしれない(笑)。
安田
笑。ところで私、最近よく「祖父母の世代が死ななければ、孫は生まれない」というような生物的な進化が起きたとしたら、どうするんだろうって考えるんです。

久保
ほぉ、興味深い。自分が生きている間は、自分の孫は生まれない、ということですか。うーん、私ならどうするかなぁ…。難しいですね。
安田
でも実際、今だってそれに近しいことが起こっていますよね。老人はどんどん増えていて、若い世代は子どもを作っていない。これって「種の存続」という視点で見ると、かなり危険な状況ですよ。

久保
確かにそうですね。そもそも今は「個=自分」が死んでしまったら、もう終わり。「種」として生き延びていても、それは自分には関係の及ばぬところ。そういう感覚の人が大半なのかもしれません。
安田
いつからこうなってしまったんですかねぇ。少なくとも、1000年、2000年前の人間は、そんな感覚じゃなかったと思うんですけど。

久保
本当ですね。もしかすると今こそ「どう生きて、どう死んでいくか」ということを改めて考えるべき時なのかもしれません。
安田
子どもたちにも「なぜ人間は生きているのか」という授業を必須で受けさせるといいかもしれない。

久保
そもそも、「生きること」は皆さん割とよく考えると思うんです。でもそこからさらに踏み込んで、「死ぬこと」について真剣に考える時間が、今の私たちには必要なんじゃないかと思っています。
安田
なるほど。死ぬことを考える時間ですか。「死」を見つめることで、「個」としてどう生きるべきか、それがわかる手がかりになるのかもしれませんね。

 


対談している二人

久保 光弘(くぼ みつひろ)
健康人生塾 塾長/ホリスティックニュートリション研究家

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仙台出身、神奈川大学卒。すかいらーくグループ藍屋入社後、ファンケルへ。約20年サプリメントの営業として勤務後、2013年独立し「健康人生塾」立ち上げ。食をテーマにした「健康人生アドバイザー」としての活動を開始。JHNA認定講師・JHNA認定ストレスニュートリショニスト。ら・べるびい予防医学研究所・ミネラル検査パートナー。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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