第17回 「足し算」のガーデニングと「引き算」の造園

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第17回 「足し算」のガーデニングと「引き算」の造園

安田
「ガーデニング」と「造園」は何が違うのでしょう。単純に洋風と和風の違いなんでしょうか。ベルサイユ宮殿のような庭がガーデニングとしたら、皇居のような庭は造園、というような。

中島
そういう分け方もできますね。別の視点で考えるなら、「足し算」がガーデニング、「引き算」が造園、という風にも言えるかもしれません。
安田

ほう、それはどういうことですか?


中島
たとえば、花や木をたくさん植えていく。レイアウトを細かくデザインしたり、豪華な装飾をしたり。ガーデニングではそういう「足し算の考え方」をよくします。一方造園は、「どうやって要素を減らしていくか」という、「引き算の考え方」が基本になっているんです。
安田
ははぁ、興味深い。確かにヨーロッパにある宮殿のお庭なんかは、噴水や花壇などで埋め尽くされているイメージです。

中島

ええ。その点日本庭園では、噴水も花壇も基本的には作りません。水を流すとしても、水路のような人工的なものより、高低差を活かした小さな滝のような形で作ります。

安田
なるほど。つまり、ガーデニングは「人の手を加えてより美しいものを作ろう」としている。造園は「できるだけ自然の形を再現しようとしている」とも言えそうです。

中島
ああ、まさに仰るとおりです。ガーデニングの基本ともなっている「左右対称」の考え方自体、自然にはないものですから。木や花という自然のものを活用して、「人間の考える美しいデザイン」を作り上げるイメージです。
安田
なるほどなぁ。しかし日本と西洋で、どうして方向性が変わったのでしょうね。やはりそれぞれの文化の違いに関係があるんでしょうか。

中島
一節には、「狩猟民族と農耕民族の違い」が理由だと言われています。狩猟民族の多い西洋では、「自分たちの力を示すような庭」が発達した。一方、農耕民族の多かった日本では、普段から慣れ親しんでいる「自然を模した庭」が好まれた、と。
安田

ふーむ、説得力があります。確かにヨーロッパの宮殿の庭は、賑やかというか華やかというか、見る人に対する主張が強い。それに比べると、日本の庭園は控えめというか、おとなしい印象を受けます。


中島
そうですね。ガーデニングでは「作り込まれた美しさ」こそが魅力ですから、安田さんが仰るように主張は強くなる。造園はどちらかというと「余計なものを置かない」ことが侘び寂びに通じるので、一見するとおとなしく見えるんでしょうね。もっとも、そのおとなしさの中に独特の魅力があるわけですが。
安田

なるほど。だんだんと違いがわかってきました。ちなみに「ガーデニング」というと、自宅の庭を使って趣味でやる人も多いですが、「造園」を趣味でやる人というのはあまり聞かないですよね。


中島

確かに、言葉の定義的にも、ガーデニングの方が手軽に始められるイメージはありますよね。庭じゃなく、ベランダに花を植えることも「ガーデニング」と言えますから。

安田
ああ、確かにそうかもしれません。ちなみにガーデニングを楽しむ人は、やっぱり花がメインになるんでしょうかね。

中島
そうですね、お花好きな人が多い印象です。「一年草」といって芽が出てから枯れるまでが1年周期の草花があるんですが、それを毎年植え替えたりする人もいます。あるいは、冬に枯れても次の春にはまた芽が出る「宿根草」を植える方もいますね。こちらの方が長くじっくり楽しめる。
安田
へぇ。いろいろな楽しみ方があるんですね。direct nagomiさんにお庭を頼むお客さんの中にも、「自分でガーデニングをやりたい」という方もいらっしゃるんですか? 自分で花を植えるスペースを作って欲しいとか。

中島

ええ、そういうご依頼もありますよ。「ここは自分たちで作りたいからそのまま残しておいてほしい」というような。その場合は花壇の形で残したり、ご自身での作業がやりやすいよう、防草シートの下に植栽で使える土を入れたりなどの工夫をします。

安田
なるほど、それはいいですね。一方で、「造園を自分でやりたい」という人もいるんですか?

中島
うーん、そちらはなかなかいらっしゃいませんね(笑)。木を植えたり石を積んだりと作業が大掛かりになるので、個人ではなかなか難しいと思います。苔を貼るぐらいならガーデニングの感覚でできると思いますけれど。
安田

そうでしょうね。ということは、「庭いじりが好きな人」には、実はガーデニング的な庭の方が合っているとも言えますか。


中島
そうですね。花が好きな人って、お庭全部を花で埋め尽くしたい、という人が多いんです。そういう意味では、「足し算」の考え方で作られたお庭の方が合っているのかもしれませんね。
安田
でも中島さんが作るお庭は、基本的には作った時点で空間が完成されていますよね。そこに後から素人が手を加えたりしない方がいいように思うんですが。

中島

いえいえ、あくまで庭は住まわれる方のものなので、自由にしていただいて構いません。ただそれが「自分で花を植えたい」という気持ちからではなく、「プロにメンテさせると高くつく。だから仕方なく自分でやる」ということだと、少し残念だなとは思います。そういうことも考えて、僕はあまり手入れの必要がないお庭を提案するようにしているんです。

安田

なるほどなぁ。そういう風にいろんな角度から考えているからこそプロなわけですね。ところで、中島さんご自身は自宅の庭に花を植えたりするんですか?


中島
一年草は植えていませんが、宿根草はいくつか植えています。毎年同じ時期に花を咲かせてくれるので、季節の移り変わりがよくわかります。
安田

春には春の花が咲き秋には秋の花が咲くような、まさに自然に近いお庭を作られているということですね。いやぁ、なかなか奥が深いです。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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