第148回 収穫し続けることの限界

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第148回「収穫し続けることの限界」


安田

ローソンの社長だった新浪(にいなみ)さん。サントリーの社長になられてたんですね。

久野

はい。もう随分前ですけど。

安田

その新浪さんが「45歳定年でいいんじゃないか」発言で大炎上しちゃいました。

久野

サントリー不買運動みたいな騒ぎにまでなって。

安田

謝罪しましたね。だけど経団連会長も「45歳が妥当だろう」と言い始めてます。

久野

どちらも「45歳で辞めろ」って意味じゃないんです。

安田

その前提で働かないと「いつか仕事がなくなっちゃうよ」ってことでしょうね。まともな言い分なのになぜこんなにも炎上するのか。

久野

みんなやっぱり終身雇用が当たり前だと思ってるので。

安田

だけど大手もリストラしてるわけじゃないですか、現実的には。

久野

終身雇用って実質もうないんですよ。

安田

だからマーケットに出されたときに「食えるスキルを身に付けなきゃ駄目だ」っていう、すごくまともで社員想いのメッセージだと思いますけど。

久野

やっぱり多くの人は「終身雇用は終わってない」って信じたいんだと思う。

安田

「明日からサントリーは45歳定年だ」って言ってるわけじゃないし。じっさい55とか60でいきなり放り出されても食べていけないわけで。

久野

本来は自分でキャリアを考えるべきなんでしょうけど。

安田

再雇用になっても「給料が激減した」って文句ばかり言ってるし。

久野

それが本当の実力なんですけどね。

安田

でもその年齢まで勘違いしちゃったら、もう取り返しがつかないです。

久野

そう思います。

安田

45歳でも遅過ぎるぐらいで。

久野

本来は自分で決めるべきなんですよ。

安田

ですよね。自分の中でゴールを決めておいて、必要とされてるなら続ければいいし。そうじゃないなら早く自覚して頑張らないと。

久野

45歳で区切りがあると、会社も若い社員にもっと給料が払えるんです。ずっと雇う前提だと若い頃は高く払えない。

安田

区切りがあった方がお互いハッピーだと思うんですけど。

久野

45歳に区切りがあると意識や働き方も変わってきます。

安田

実際にサントリーの中の人も怒ってるんですかね。

久野

いや、炎上してるのは外の人だと思います。

安田

外の人にとっては関係ない話なのに。

久野

自分のことと重なって感情的になるんでしょうね。

安田

その割にみんな安いものばかり求めますけど。安さって人件費を含めたコスト削減で成り立ってるのに。

久野

おっしゃる通りだと思います。

安田

労働条件を良くすると価格は上がっていくわけで。だけどそれは受け入れないですよね。

久野

矛盾してますよね。

安田

「経営者の立場だから言えるんだ」って炎上してましたけど。新浪さんなんて雇われ社長なわけで。

久野

まさに自分自身が実力を磨き続けなくちゃいけない立場ですよ。

安田

そうですよね。ぜんぜん安泰な立場じゃないのに「あなたはいいよね」とか言われる筋合いがない。これって単なる嫉妬じゃないですか。

久野

当たり前のことを否定されるのって、ものすごく日本人は嫌なんですよ。

安田

終身雇用が当たり前ってことですか。

久野

日本人の大半はそう思ってると思います。

安田

給料も増やし続けるべきだと。

久野

思ってるでしょうね。

安田

そんなことしたら会社が破綻することは目に見えていますけど。

久野

会社よりも自分なんじゃないですか。

安田

自分のためにも「会社をなんとか守ろう」という意識にならないんでしょうか。

久野

どちらかと言うと「会社から自分を守ろう」っていう意識ですね。

安田

会社から自分を守る!?

久野

「会社から自分や仲間を守るんだ」みたいな。

安田

同じことが国に対しても起こってますよね。税金や社会保険料から「自分達を守らなくちゃいけない」みたいな。

久野

まったく同じ構造ですね。

安田

国を守ろうという気持ちではなく、国に搾取されないように「自分たちの金を守ろう」みたいな。

久野

そうなってきてます。

安田

そのわりに会社員や国民としての待遇はしっかり求めるんですよ。

久野

そういう部分はアメリカの方が健全ですね。個人の実力がそのまま会社業績につながってる感じで。

安田

完全実力主義ですもんね。

久野

そこに貢献できてない人はコミュニティーからどんどん捨てられていく。だから企業に自分自身をフィットせざるを得ない。

安田

終身雇用ではないアメリカのほうが結果的にロイヤリティーは高いですもんね。

久野

会社と一体にならないとやっていけない仕組みなので。日本では第三者的に参加してても給与もらえちゃうわけです。それは非常に良くない状態だなと思います。

安田

自社のビジネスモデルを一切理解していなくても給料は出ますからね。

久野

そのくせ「ビジネスモデルが悪い」とか言い出すんです。

安田

日本には共助という考えがあると思うんですよ。体を壊しちゃう人もいるので、そういう人を守れる社会じゃなきゃ駄目だっていう。

久野

何でもかんでも自己責任じゃ駄目だとは思います。

安田

そのためにはどうしても税金は高くなるし、全体の平均は少なくなっていく。成果主義じゃないからやらない人も出てくるし。

久野

本来、生活の苦しい人を守るのは国家の仕事じゃないですか。会社がやるべきは収益を上げて税金を払うこと。その税金によって国が生活保障していくのが本来の姿。

安田

そうですよね。

久野

だけど現実は会社が国家みたいになってて。「生活扶助まで全部やってくれ」という仕組みになってる。グローバルな戦いになったときに勝てない重荷をしょってます。

安田

会社と国をごちゃまぜにしちゃってますよね。会社に要求するのは間違ってるのに。

久野

そう思います。

安田

国に要求するんだったら高い税金も払わなくちゃいけないし、会社はそもそも要求する対象じゃないし。

久野

税金も払いたがらない人が多いです。とにかくバランスが悪過ぎますね。

安田

なんでこんなふうになっちゃったのか。

久野

収穫から始まるからでしょう。

安田

収穫から始まる?

久野

日本に生まれただけで最低限の生活が保障されますし、会社員になれば雇用された月からちゃんと給料がでますから。

安田

確かに。まず与えられるところから始まりますね。

久野

でもそれって先人が苗を植えてくれたから出来ることで。

安田

自分が植えるのは嫌なんでしょうか。

久野

割が合わないと思うんでしょうね。収穫だけするのが当たり前になってるので。自分が種をまく番になったらもういないんです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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