第195回 守るべきフリーランスは誰?

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第195回「守るべきフリーランスは誰?」


安田

フリーランス保護法について聞きたいんですけど。

久野

フリーランス保護新法ですね。

安田

その新法が制定されるというニュースを見まして。国としてはフリーランスを増やしたいんでしょうか?一方で「正規雇用を増やせ」とも言ってて。どっちなんですか。

久野

やっぱり雇用だと思いますね。

安田

基本的には正規雇用を増やしたい。

久野

はい。間違いなく。

安田

なぜフリーランスをこんなに手厚くサポートするんですか。

久野

意図しないところから、フリーランスがどんどん増えてまして。法律的にまだ未整備なんですよ。

安田

増えちゃったから整備するしかない、みたいな感じですか。

久野

安田さんの周りにいるような「めちゃくちゃ強いフリーランス」から、労働よりもひどい状況に置かれてる「搾取型フリーランス」まで、色々いるんです。

安田

名ばかりフリーランスですね。

久野

そういう人も多くて、「国としては保護しなきゃいけないよね」という流れです。

安田

そういうことなんですね。「フリーだから社員より安く」というのは困ると。

久野

安いフリーランスは存在させたくないんでしょう。

安田

フリーの報酬を高くして、企業が「雇用を増やそう」という方向に持ってきたい?

久野

そこまでは考えてないと思います。最低限のルールだけ決めておきたい。

安田

最低限の報酬ってことですか。

久野

安田さんの想像以上にひどいことになっていて。たとえば10万円で契約したんだけど、契約書がないから3万円しか払わないよとか。

安田

え!そんな人、見たことないですけど。

久野

安田さんの周りにいないだけです。10万円で契約しておいて「これもやって」「あれもやって」って、どんどん増えたり。

安田

そんなの断ってしまえばいいのに。

久野

弱い立場だと受けるしかなくて。「適切な報酬がもらえない人たち」を保護しようというのが第一目的ですね。

安田

「泣き寝入りせざるを得ないケース」が多いって書かれてました。断りゃいいんじゃないのって思うんですけど。

久野

安田さんには、なぜこんな仕事をやってるか分からないと思うんです。けど、たとえば毎月20万円で受けてるとするじゃないですか。

安田

はい。

久野

そうすると、やっぱり生活の一部になっちゃうので。「悪いけど来月から同じ仕事で18万円ね」「16万ね」みたいな感じになっていく。

安田

ぜんぜんフリーじゃないですね(笑)

久野

そうなんですよ。契約書もなく、無知な人も多いので。法人対個人だと知識の格差がありすぎる。だから悪用する企業がないように保護する必要があるんです。

安田

私がイメージしてるフリーランスとはちょっと違いますね。どこかの企業専属で何を言われても断れない人ですよね。

久野

はい。そこを保護する感じです。

安田

だったら雇用して貰えばいいのに。

久野

雇用するといろいろ費用もかかりますし、労働法も厳しくなってるので。

安田

つまり最低賃金と一緒ですね。雇用であろうが、フリーランスであろうが、アルバイトだろうが、「これだけのお金はちゃんと払いなさい」みたいな。

久野

そうですね。最低賃金法に近い感じだと思います。

安田

なるほど。

久野

あとは支払いですね。極端な話「安田さん、2年後に払うね」みたいなこともなくはないじゃないですか。

安田

なぜそれを断らないのか不思議でしょうがないです。

久野

やっぱり断れるかどうかがすごく大事なんですよ。

安田

不利な条件でも辞めない社員さんと同じですね。条件が悪くなっても断れないフリーランス。

久野

自分で顧客開拓できない人はそうなってしまいます。

安田

フリーランスは「自分で顧客開拓すること」とセットですよ。経営者とある意味同じリスクを背負ってる。だから稼げるわけだし。

久野

営業力のないパターンのフリーランスって、一定数いると思うんです。なんとなく始めちゃったみたいな。ここは非常に危険な状態ですね。

安田

営業力がなくても、スキルがあればお客さんを選べると思うんですけど。どっちもないんでしょうか?

久野

そうでしょうね。

安田

売る力もないし、他の人と違う納品ができるわけでもないし。なんでフリーになったんだってことになりますけど。

久野

正社員になれない方というのも世の中にはいるんですよ。

安田

正社員になれないから、仕方なくフリーランスをやってると。

久野

そういう人をうまく使ってきた歴史はあります。自社専属みたいにある程度の報酬を払って、相手が断れない状態になってから、ちょっとずつ値下げを要求するとか。

安田

大企業が下請け中小企業にやってきたのと同じ構造ですね。

久野

そうですね。だから公正取引委員会が管轄になる。

安田

つまり国としては「フリーランスを増やしたい」という意図ではなく、仕方なくフリーになってる人を保護することが目的だと。

久野

放っておいても伸びていくところには、法規制って必要ないんです。放っておくとまずいところに法規制して、最低ラインを上げていく。

安田

私のイメージと全然違いました。フリーの人を増やして、税金も安くしてくれるのかと思ったんですけど。全然フリーランス保護じゃないですね。

久野

税制の部分でフリーランスを伸ばそうということは考えてないです。今回の法律も伸ばすというより最低限を救う感じ。

安田

この先フリーになる人がどんどん増えていく流れですけど。フリーの人たちもしっかりと稼いで税金払ってねってことですか。

久野

多様化はもう避けられないだろうと。その中で出てくるまずい立場の人をなくす。

安田

「仕事ができない人がフリーになっていく」っていうのが、どうも分からなくて。

久野

普通は逆ですよね。

安田

社員でいるより稼げるし、拘束時間も短くなるからフリーになる。これが普通ですよ。稼げない人は会社にしがみつかないと。

久野

「うん」とは言えないですけど、ぶっちゃけそうですよね(笑)

安田

そんな人ばかり雇ったら大変ですけど(笑)

久野

実力と自由って比例しなきゃいけないと思うんです。けど自由だけを求めてる人って、めちゃくちゃ世の中多いんですよ。

安田

実力がないのに自由になったら大変ですよ。

久野

そうなんですけど。納品にやたらルーズとか。そういう人もいますから。

安田

納期を守らないフリーランスなんて、よほどの実力じゃないと絶対に成り立たないです。

久野

会社に発注するとその点が安心じゃないですか。誰かが必ず対応してくれるわけで。

安田

そうですね。だから高いってのもありますけど。余計な人数を抱えてる分。

久野

そうなんですよ。フリーが伸びる要因もそこにあって。

安田

やる事さえやればフリーは快適ですよ。だけどやるべき事をやらない人には無理。そんなフリーランスは守らなくていい気もしますけど。

久野

そうは言えないわけですよ、国としては。

安田

そりゃそうですよね。選挙で負けちゃいますもんね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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