第218回 正社員の定義はとても曖昧

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第218回「正社員の定義はとても曖昧」


安田

昔と違って、共働きが当たり前になってきてますね。

久野

間違いないです。専業主婦はどんどん少なくなっていきます。

安田

だけど出産で2〜3年離れてから戻るのって、難しいですよ。

久野

それだけ離れてしまうと元の仕事に戻るのは難しいです。

安田

日数を減らしてでも、仕事を続けたほうがいいと思うんですけど。

久野

私もそう思います。

安田

たとえば「正社員だけど週3日」とか。法的には可能なんでしょうか?子育て期間だけそういう待遇にするとか。

久野

もともと法律では「3歳までの短時間勤務制度」というのを、設定しなきゃいけないんです。

安田

どれぐらいの短時間なんですか。

久野

週5の6時間です。つまり週30時間。

安田

もっと縮めることも可能ですか。

久野

会社によっては柔軟に対応しているところもあります。ただ、正社員の定義がなかなか難しくて。短時間正社員という定義がないんですよ。

安田

短くすると正社員じゃなくなっちゃう?

久野

そうですね。短くしすぎると社会保険を外さなくちゃいけなくなるので。

安田

社会保険を外すと正社員ではなくなるんですか。

久野

法律的に「正社員だよ」という定義が実はないんです。「これをやったら正社員」という明確な境界がなくて。

安田

ないんですか。

久野

法律上はないんです。各々の会社で決めていい。

安田

なんと。

久野

だから月給の人を正社員と呼んでいる会社もあれば、月給だけど正社員と非正規に分けている会社もあります。

安田

何が違うんですか?

久野

一般的に正社員は「売上の責任を負っていて給与が高い」というイメージ。非正規と呼ばれる人には契約期間がある。

安田

じゃあ契約期間が短い正社員ってあり得ないんですか?

久野

労働時間が短い正社員はつくろうと思えばつくれます。

安田

労働年数が短い正社員は?

久野

それは正社員じゃないですね(笑)

安田

正社員じゃないんですね。

久野

それが契約社員です。

安田

なるほど。

久野

「問題を起こさなければ定年まで働ける」というのが正社員。

安田

つまり「定年まで働ける」ことがひとつの縛りですね。

久野

そうです。

安田

「社会保険に入っている」というのも、正社員の縛りとしてあるんですか?正社員でも社会保険に入っていない人っているんですか。

久野

社会保険は労働時間とひも付いているだけなので。だから世の中では「労働時間の長い人=正社員」と呼ばれているんです。

安田

社会保険に加入しないといけないのは何時間からですか。

久野

大企業は週20時間で、中小は週30時間です。

安田

ということは中小企業で30時間を切ると社会保険が外れちゃう?

久野

そうなんです。

安田

「時間的には外れるけど社保に入りたい」っていう場合は入ってもいいんですか?

久野

企業で統一する必要があって。「うちの会社は20時間以上から入れる」という労使協定を結ぶ必要があります。二度と戻れないですけど。

安田

特別扱いはダメだと。

久野

「この人だけだよ」という枠はできないんです。けど20時間までは何とかなります。

安田

20時間以下はできない?

久野

できないです。

安田

仮に週3日勤務で1日6時間勤務だったら18時間じゃないですか。これだと社会保険は外れるってことですよね。

久野

そうです。

安田

たとえば「社会保険が外れる、給料が減る」ということを働く側が納得していて、定年までそのスタイルで働くというのはありですか?特殊なカタチの終身雇用。

久野

制度があれば週3正社員でも週4正社員でも大丈夫です。

安田

そうなんですね。じゃあ制度があって、それを社員が納得すればいいってことですね。社員から「この1年はフルタイムから週2に移行したい」みたいな希望があれば。

久野

いいと思います。ただ、そうなっていくと、何をもって正社員か益々分かりにくくなる。

安田

終身雇用じゃないですか。「定年まで働き続けられる」ということが正社員。

久野

パートさんも無期契約だったら終身です。

安田

なるほど。つまりパートさんも本当は正社員なんでしょうね。「パート」なんていう括りがおかしいだけで。

久野

そうなんです。時給になっているだけですから。だから一般的には月給の人を正社員と呼ぶんです。

安田

じゃあ制度として「週2、週3だけど月給制」という決め方をすればいいんですか。

久野

そうですね。ただ出勤が少なすぎると現場は混乱します。たとえば週1正社員なんて現実的には機能しません。

安田

最低限、週何日ぐらいですか。

久野

ぎりぎり週4日じゃないですか。週休3日。

安田

週4だったら今と変わらないじゃないですか。1日8時間勤務だと32時間ですよ。子育て中の人にしてみたら、すごく中途半端。

久野

もっと自由にやりたいならパートのほうがいいです。「2年間は来たいときに来ていいよ」とか。

安田

それは正社員ではなくなるということですよね。

久野

そうなってしまいます。

安田

もっと自由にできないんでしょうか。

久野

他の社員とのバランスが難しいんですよ。組織でやっているので最低ラインの労働時間だけは決めておかないと。

安田

出産なんて誰にでもあることなので、社員同士が互いにカバーし合うとか。

久野

出産に関係ない社員もいるでしょうし。難しい問題ですよ。

安田

パートになると社会保険から外れてしまうわけですよね。

久野

外れちゃうけど3年後に戻ってきたときは、「またそのタイミングで社会保険に再加入しますよ」みたいな。

安田

外れた期間だけ旦那さんの扶養に入るんですか。

久野

その人の年収によりますね。たぶん入れないと思います。130万円を超えたら旦那の扶養に入れないので。

安田

扶養にも入らなかったらどうなるんですか。

久野

国民健康保険です。

安田

国民健康保険になっちゃうんですか!

久野

そういう部分も変えていかないといけないんです。制度が追いついていないので。

安田

制度の問題なんですか?

久野

だって最低賃金が上がっているのに、限度額は昔から変わっていないですから。無理があることは誰が見ても分かります。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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