第244回 最低賃金は生活を激変させる

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第244回「最低賃金は生活を激変させる」


安田

岸田さん、2030年までに最低賃金を1500円にするそうです。

久野

正確には2030年代中頃ですね。それまでに1500円にしようと。あと10年ぐらいです。

安田

あと10年で最低賃金が1500円になる。

久野

そうです。つまり毎年5%くらい上がっていくということですね。

安田

岸田さんがいつまで総理やるんだって話もありますけど。

久野

そうですね。でも基本的には上げていくことが既定路線だと思います。

安田

今でさえ「もう雇えない」という会社が増えてるのに。1500円までいっちゃうと、よほど利益率の高いビジネスじゃないと無理ですよね。

久野

もしくは人が稼がない会社ってことですよ。生産性の高い素材や機械を扱ってるとか。

安田

省人化ってことですね。

久野

5%って結構すごいですから。粗利の低い会社だと、かなり値上げしないと人件費が出てこないです。

安田

実際に1500円までいくと、粗利は何%ぐらい上げないといけなくなるんですか?

久野

粗利が半分ぐらいの会社だと、10%以上ぐらい上げなきゃいけないでしょうね。

安田

なんと。10%も。

久野

燃料や材料コストも値上げしていくので。とんでもなく値上げしなきゃいけない。

安田

円安で上がるってことですか。

久野

取引先の人件費も上がりますから。全ての取引先が値上げしてきます。

安田

なるほど、そうか。仕入れから何から全部上がっちゃうってことですね。

久野

ガソリンや素材が上がって、取引先全ての人件費が上がって、どんどん積み上がっていきます。

安田

最低賃金1000円ですら反対してる経営者が多いのに。ちょっとぐらい値上げしてもぜんぜん追いつかないって。それでも最低賃金は上がり続けますか。

久野

デブレの時は上げなくてもよかったんです。けど今は最低賃金を上げていかないと票が取れない。

安田

生活できないですもんね。

久野

税金も社会保険料も上がっていきますし。1500円だと単純計算で160時間働くと24万円なんですよ。

安田

初任給が24万円になるってことですか。

久野

24万円が最低賃金になるってことですね。大変だと思います。

安田

まだ16万円ぐらいの会社もたくさんありますけど。

久野

そういう会社はもうやっていけなくなるでしょうね。

安田

できるだけ人を使わず機械化することも考えないと。よっぽど儲かる会社以外は成り立たないですよね。

久野

私は逆にいいことかなと思ってます。「安いから人間にやらせよう」という意識が今まで強すぎたんですよ。

安田

人間の方が安いって考えてみたらひどですよね。

久野

そうなんですよ。それを「もうやめる」って決断できる最後のチャンスじゃないですか。

安田

なるほど。

久野

人間って便利なんですよ。やっぱり。

安田

人間は器用ですし。なんでもできますからね。

久野

みんな我慢して真面目に働くし。機械の方が高いんですから。

安田

付加価値を生むところにだけ人間を使わないと。もうやっていけない金額ですよね。1500円って。

久野

やっていけないです。イノベーション圧みたいなものがかかると思う。

安田

労働集約型の会社はどうしたらいいんでしょう?

久野

しんどいと思います。まず人が集められない。だからさらに高い金額を提示しなきゃいけない。

安田

たとえば宅配の仕事ってどうなるんですか?ドローンが運ぶようになるとか言われてましたけど、一向にならないし。

久野

人が運んでるわけなのでやっぱり値上がりしますよ。

安田

宅急便を頼むとすごく高い値段になるんでしょうか。自分で取りに行くようになるとか。

久野

自分で取りに行くか、送ってほしいんだったら高い金額を払うか。すぐに送ってほしいとか時間指定したい場合はもっと高くなる。再配達したら2倍の料金になるとか。それが当たり前になっていくと思います。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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