第179回「とてつもなく高い壁」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第178回「日本のベンチャーが向かう先」

 第179回「とてつもなく高い壁」 


安田

バルミューダがスマホに乗り出しました。

石塚

みたいですね。

安田

ネットの反応を見てると非常に評判が悪くて。「スペックが低いのに値段が高すぎる」とか「家電やっときゃよかったのに」とか。石塚さんはどう見てますか。

石塚

「なんでスマホなのかな」って感じがする。

安田

あまり評価してない?

石塚

スマホに投入するエネルギーがあるなら、他をやったほうがよかったと思う。

安田

「本当にかっこいい、一部の人に圧倒的に支持されるスマートフォン」を目指してるそうです。

石塚

そんな感じですね。

安田

ただユーザーにとってはスペックも重要で。「素人が乗り出して世界競争に勝てるわけないだろ」って言われてます。

石塚

OSとアプリのテクノロジーで考えたら、やっぱりアップルのiPhoneがいちばん便利じゃないですか。

安田

石塚さんも私もiPhoneユーザーですもんね。

石塚

バルミューダのようないわば3次元の会社は、4次元のデジタル世界を後追いするのは難しいと思う。

安田

どんな商品ならいいんですか。

石塚

僕は車とかに行ってほしかったです。

安田

なるほど。電気自動車ですか。

石塚

そう、たとえばバルミューダ×ホンダで「かっこいい電気自動車をつくろうよ」みたいな。リアルな立体ものをつくるほうが、バルミューダらしさが出る気がする。

安田

確かに。

石塚

なぜデジタルに行ったのか。結局はOSとアプリから離れられないじゃないですか。

安田

実態はWebの中にありますもんね。

石塚

おっしゃる通り。それで結局Androidを搭載するわけじゃないですか。Googleフォンもいま急追してるけど、まだ3番手だし。

安田

ちょっと無謀でしたか。

石塚

Androidを搭載する“単なる箱”をつくってるだけなので。

安田

確かにそうなりますよね。

石塚

僕はバルミューダ×ホンダが見たかったです。

安田

「バルホンダ」みたいな(笑)

石塚

そうそう(笑)

安田

だけど自動車業界もデジタル化して、4次元自動車に変わろうとしてますよ。

石塚

そうなんです。

安田

いずれは家電もぜんぶそっちの方向に行くんでしょうけど。

石塚

自動車そのものがパソコン化するわけですよ。

安田

はい。

石塚

共有部品もどんどん増えて、誰がつくっても「〇〇製はすごいよ」ってものがなくなる。

安田

そうなっていくでしょうね。パソコンみたいに。

石塚

そしたらデザインの差とかになってくるじゃないですか。

安田

Macはそこで勝負してますよね。

石塚

バルミューダもそういう勝負なら面白いと思う。

安田

スマホだとデザイン勝負はできないんですか?

石塚

スマホはどうしてもOSの更新が不可避だから。あれをゼロイチで追いかけるのは無理だと思う。Googleフォンだってまだまだじゃないですか。

安田

スマホの失敗でバルミューダ自体がコケちゃう可能性もありますか。

石塚

まあ話題にはなったから。あんまり深入りしなければコケることはないでしょう。

安田

BALMUDA Phoneってソフトバンクの独占販売みたいで。あの孫さんが目をつけるってことは勝ち目があるんじゃないですか。

石塚

どうだろう。でも正直、高いと思う。

安田

やっぱ高いですか。

石塚

高い。あのフォルムを除けばAndroidスマホなわけで。アプリでバルミューダ製品とつながるとか、あの金額を出してまでそんな機能いらない。

安田

だけど数千円のトースターを10万円で売った会社ですよ。10万のスマホは決して高くないと思いますけど。

石塚

僕はそうは思わないです。

安田

10万のトースターより10万のスマホのほうが高く感じる?

石塚

バルミューダのトースターって、それだけの金額を出してもすごく幸せな気持ちにさせたと思うんですよ。パンが信じられないぐらいおいしく焼けて。

安田

それが今回のスマホにはないと。

石塚

「これはすごいなあ」って驚きは、スマホには感じられなかった。やっぱりiPhoneのほうがユーザーをたくさん幸せな気持ちにさせる。

安田

まだ実物を触ってもいないんでしょ?

石塚

触ってないけど何となくときめかない。やっぱ僕は車をやってほしかった。

安田

石塚さん予想ではバルミューダスマホは売れないと。

石塚

もうひと捻りしないと難しいと思います。

安田

たとえばどんな?

石塚

たとえばバルミューダとiPhoneがコラボするとか。それだったら面白いと思う。

安田

なるほど。iPhoneのバルミューダバージョンですか。

石塚

それだったら高くても僕は買ったかもしれない。

安田

確かにiPhoneと被りそうですよね。ユーザーが。

石塚

だけどiPhoneユーザーがもう1回Androidにするって面倒くさいじゃないですか。

安田

面倒くさいですね。

石塚

僕も安田さんも絶対にしないと思う。

安田

しませんね。

石塚

だけどバルミューダのiPhoneだったら、どうですか?

安田

う〜ん、モノによっては考えるかもしれません。

石塚

たぶん3・4万高くても買うと思う。「機種変それにして」って言うだけだし。どうせ分割だし。

安田

確かに。

石塚

だけどAndroidに乗り換えなくちゃいけないとなったら、あまりにも面倒くさい。

安田

その壁を越えるって大変なことですよね。

石塚

かなり大変だと思う。

安田

Googleもその壁を越えられないんでしょうか。

石塚

毎日使ってるものって変えにくいんですよ。

安田

習慣を変えるみたいなものですからね。

石塚

しかもスマホって買い物とか、認証とか、あらゆるひも付けがされてるから。とてつもなく高い壁ですよ。

\ これまでの対談を見る /

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから