2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第191回「疑わないのはなぜ?」
石塚さん、高校生の就活って詳しいですか?
まあ、そこそこ。
高校生の就活って、ひとり1社しか受けられないそうで。
おっしゃる通り。
学校から1社だけ推薦もらって、内定を受諾したらもう他は受けられない。
そうです。要するに「よそを見られない」ってことです。
そんなのがいまだに続いてるんですね。
異常ですよ。
見直そうという都道府県も全国で2つしかないって。これは利権が絡んでるんですか。
若年労働者をどういうふうに供給するかは「出来レース」でつくられてまして。
出来レース?
基本9割は県内就職させろと。そのうち7割は製造業に回せっていう。まあ県ごとに若干違うんですけど。おおよそ、こういうふうに話がついてる。
それは国策として。
そうです。
なんか戦後のイメージですけど。
それがいまだに続いてるんですよ。
当時は国の発展とリンクしてたんでしょうね。いまは逆に発展を阻害してますよ。
おっしゃる通り。
なぜ変えようとしないんですかね。
やっぱ利権だからでしょ。
たまったもんじゃないですね。現場の高校生は。
だから就職してすぐ辞めるんです。「高卒4割」ってよく言うでしょ。いろいろ見て決めるんじゃなく「石塚、おまえはここだ」って言われて「はあ」って。
ひどい話ですね。
これだけスマホでTikTokやYouTubeを見てたら、そりゃ転職しますよ。
まずは「先生が勧めてくれるところに行こう」って話になるんですか。
まあ高校生ですからね。高校の進路指導って完全に思考停止状態だし。
推薦だといい会社に入れるんですか。
成績順で割り振りが決まっていて。いちばん優秀なのは、だいたい地場大手の高卒採用に行く。
そういう学校推薦なら価値ありますよね。
本人の意向はどうかわからないけれど。
高卒で就職活動して大手に入るって、なかなか難しいですよ。
まあ、むずかしいですね。
それ以外の人は自分で就職活動すりゃいいのに。
出来ないんですよ。
べつに禁止されているわけじゃないですよね。
禁止はされていないけど。そこから外れたら「だったら自分でやれ。責任負わないから」って、はしごを外されちゃうわけです。
18歳ではしごを外されるのは、さすがに怖いですね。
そりゃ怖いでしょう。親も「お前なに言ってんだ」ってなるし。「学校の進路指導の先生の言うこと、よく聞けよ」って普通の親は言う。
学校としては地元に就職させたいんですか。
そうです。とくに今は労働力不足だから。都市に出ていかれたりすると困るわけです。
なるほど。
「高校生は地元で就職させるようにしてくれ」ってことですよ。
「地元であれば3社受けてもいい」とか。緩和するのはどうですか。
そこには企業の格と序列があるから。
格と序列?
「うちは○○高校から〇〇人採る」ってことで、人員計画ができてるから。
もし内定を蹴ったりすると、もうその学校からはとってもらえない?
進路指導の先生が謝りに行って、代替の生徒を送って「安田が失礼なことをしてすみません。高松もいい生徒なので高松を行かせます」って、そういう話ですよ。
なるほど(笑)
「ちゃんと頼むよ」「毎年うちから採用いただいてありがとうございます」「いやいや、うちも石塚さんの高校からいつもとってるから」って、要するに共存共栄です。
先生が推薦したら100パーセント採用されるんですか。
よほどのことがない限り。それが高校の就職指導です。
そうなんですね。
だから自由に選べない。「おまえはここ行け」って。
でも結局4割は辞めちゃうわけでしょ。なぜもっと自由にさせてあげないのか。
高校生を自由にさせてしまうと「公平性が保てない」という理由です。「高校生はまだそういう判断がつかない」って。ふざけた理由なんですけど。
成人を18歳にしようって話になってるのに。
誰もそんなこと言い出さない。そこはアンタッチャブルなんですよ。
どっちが反対してるんですか?企業側か。学校側か。
両者とも変えたくないと思います。
先生はもっと生徒寄りでいい気がしますけど。
「変える」とか言った日には、たぶんその先生、僻地の高校に飛ばされるでしょうね。自由にものなんか言えないから。
そういう世界なんですね。
それに高校の進路指導も人員が足りないから。サポートしきれない。
なるほど。
だから今まで通り「決められたとおり今年もやりましょう」「それでみんな幸せじゃないですか」って。
少なくとも職業選択の自由を得るために、大学に行く価値はあるってことですね。
どうでしょう。転職すりゃいいだけの話だから。1社でずっと勤め上げるってこと自体、いまの世の中ありえないですから。
最初に入った会社の影響ってすごく大きいと思いますけど。
大きいですね。
「仕事とはこういうものだ」って価値観が、ほぼそこでできあがっちゃう。
安田さんの場合は、それがリクルートだったと。
そうでしたね。
影響はすごく強かったですか。
私は大学卒業してましたけど。それでも社会に出たことがなかったですから、影響は大きかったです。
まあ、そこまでを考えてないんでしょうね。昔からこうだからって誰も疑わない。
親も疑わないんでしょうか。現場で社会の変化を目の当たりにしてるはずなのに。
疑わないです。自己否定につながるので。親も現場で昭和のシステムをそのまま使ってるわけですから。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。