仲良しの常連は続かない|三人目 センパイ先生と対談シリーズ

センパイ先生 プロフィール

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辻本 誠
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。

仲良しの常連は続かない

– – – 目次 – – –



初めての「BAR」体験を

安田
安田
「BARの入口」というコンセプトは悪くなかったと。

辻本
辻本
はい。それがあったから結果的に繁盛したんだと思います。
安田
安田

当時はまだカフェバーみたいなのはなかったんですか?

辻本
辻本
少なくとも僕のやっていた街にはなかったですね。
安田
安田

じゃあ学生はみんな和民?当時だったら養老乃瀧とか。

辻本
辻本

そうでしたね。

安田
安田
なるほど。だけど最初は安売りに走っちゃって、失敗したと。
辻本
辻本
はい。当時のメニューを見返すと、「BARへの段差を埋める」というコンセプトと、まったく連動していないんですよ。
安田
安田

なぜそうなったんですか。コンセプトは明確だったのに。

辻本
辻本
やっぱり無知だったんでしょうね。コンセプトは途中でごっそり抜け落ちて、値段で集客する方向にいっちゃいました。
安田
安田
よく元に戻せましたね。普通だったらズルズル行きそう。

辻本
辻本
大きな壁にぶつかって変更せざるを得ませんでした。それで「若い人たちがもっとお酒に興味をもってもらえるように」というメニューに移行して。少しずつ売れるようになっていったんです。
安田
安田

学生相手に「安売り」というのは間違っていない気もするんですけど。とりあえず店に来てもらわなきゃいけないし。

辻本
辻本
売りが悪かったというより、必要な情報が伝わってなかったですね。
安田
安田

安さ以外のアピールポイントが、伝わっていなかったと。

辻本
辻本
まさにそうです。
安田
安田

それは、お店に来た人に伝えるべきなのか。あるいはチラシを配るときに伝えるべきなのか。どっちなんですか?

辻本
辻本
本来ならチラシを配る時点だと思います。
安田
安田
「社会に出たらBARという素敵な場があるけど、いきなりそこって難しいよね」みたいなチラシ?

辻本
辻本

それを言葉にするか感じさせるかは、考えないといけないところです。

安田
安田

確かに。言葉では伝えにくいですよね。

辻本
辻本
はい。
安田
安田

どうやって伝えるようにしたんですか。

辻本
辻本
当時はメニューに商品名と価格しか書いてなかったんです。学生さんは知らないお酒を頼むのに抵抗があるので、せっかく来てもらってもビールばっかりで。
安田
安田

なるほど。

辻本
辻本
自分たちが伝えたいものが伝わらない、だからリピートもされない。そういう悪循環になってました。


リピート獲得のためのメニュー工夫

安田
安田

ビールを飲むだけなら居酒屋でいいですもんね。

辻本
辻本

そうなんです。「せっかく勇気を振り絞って来たのに」「メニューも頼みづらいし」みたいな。

安田
安田
いわゆる BARっぽいメニューだったんですか?

辻本
辻本

めちゃめちゃBARっぽかったですね。そこが完全に失敗だったと思います。カクテルの名前を羅列したって、わからないじゃないですか。

安田
安田
分からない人がターゲットですもんね。

辻本
辻本
まずはそこを工夫して。いろんなお酒とかカクテルに興味を持ってもらえるようにしました。
安田
安田

なるほど。じゃあリピート目的?

辻本
辻本
まずはリピート目的ですね。それと紹介を増やすこと。
安田
安田
紹介は増えましたか。

辻本
辻本

はい。コンセプトが伝わるようになって、「あそこに行くといろんなお酒が楽しめるよ」という感じで、リピートと紹介が増えていきました。

安田
安田

安さが目的で来た人にそのコンセプトって響きますか?メニューの細かい説明をされても「ビールが安いから来たんだ」「そんなのどうでもいいから」ってなりませんか。

辻本
辻本
おっしゃる通り。そうなりました。
安田
安田
ですよね。

辻本
辻本
「ビールしか飲みたくない」って人も来ていたし、「機会があれば、いろんなお酒を楽しみたい」って人も来ていた。その中から残っていった感じです。
安田
安田
なるほど。結果としてターゲットにしたい人が残っていったと。

辻本
辻本
はい。
安田
安田
まずは安さで集めてきて、魅力を伝えるようにしたら一部の人がファンになって、リピートも紹介もしてくれるようになった。
辻本
辻本

そういうことです。あまりに駅から遠いので、集客なんてキャッチみたいなものですよ。駅前で団体を見つけてはチラシを渡し、トークでつないで店まで一緒に連れていくみたいな(笑)

安田
安田

ザルのような集客をしていたわけですね。

辻本
辻本
はい。ちょっとずつリピートしてくれて、紹介も増えていくようになりました。

 


コンセプトの見直し。いなくなった常連さん

安田
安田

コンセプトを見直すことが大事だって、どうやって気づいたんですか。普通は気が付かないと思うんですけど。

辻本
辻本
じつは1年ぐらい経った頃に常連さんをごっそり失ったんです。そのときまでは「仲よくなれば売れる」という方向にいってまして。
安田
安田

常連さんはいたんですね。

辻本
辻本
よく来てくれるお客さんはいて。「仲よくなりさえすれば来てくれる」みたいに考えてました。でもそれが続かなくなって。
安田
安田

立ち止まって考える機会ができたと。

辻本
辻本
考えざるを得なくなったということです。それで「本来やりたかったことは何だったのか」ということに戻りました。
安田
安田
結果的にそれが良かったわけですね。

辻本
辻本
はい。あのまま仲良しな常連さんが来続けてくれてたら、今はなかったと思います。
安田
安田

不思議なものですね。

辻本
辻本
本当に。ある意味、運が良かったんでしょうね。
安田
安田
もし開業のときに戻ってやり直すとしたら、力まかせの集客から変えますか?

辻本
辻本
今だったらぜんぜん違うんじゃないですか。
安田
安田
今だったらどこに力を入れますか。

辻本
辻本
「うちのお店はこういうコンセプトだ」ということをまずしっかりと固めて、「そこに響いてくれるお客さんをどうやったら集められるか」というところに知恵を絞るでしょうね。
安田
安田

それで成功すると思いますか。

辻本
辻本

はい。だってネット環境が全く違いますから。

安田
安田
なるほど。当時と今では、飲食業をやる難易度がぜんぜん違うということですね。

辻本
辻本
やり方が違うということです。
安田
安田

難易度もかなり違うように見えますけど。

辻本
辻本

いえ、ネット環境が使えるのは他のお店も同じなので。かえって厳しい部分はあります。

安田
安田

なるほど。

辻本
辻本
昔は力わざで引っ張ってこれたけれど、今だったらあんな客引きはできないです。
安田
安田

新橋の駅前には、今でも強引な客引きがいますよ。

辻本
辻本

それはかなり特殊だと思います(笑)

安田
安田

やっぱそうですか(笑)

辻本
辻本

いまはもう客引きなんて無理ですよ。それをやったら逆に悪評が立っちゃいますから。

 

 

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