第8回 幻想が終わる時

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第8回 幻想が終わる時

安田
「幻想と現実の境目」について考えてみたいなと思うんですけど。たとえばお金って幻想じゃないですか。あれはただの紙切れで、最近じゃ紙すらなくなってデジタルな記録だけになっている。

鈴木
確かにそうですね。「お金というものには価値があるんだ」と皆が信じているから成り立っている。金(きん)とかも同じですよね。
安田
そうそう。それで言うと私は「国」っていうのも幻想だと思うんですけどね。鈴木さんはどう思いますか。国家というのは幻想なのか現実なのか。

鈴木
そうですねえ。まあ、物質として存在してるものは現実だと思いますよ。一方で、たとえば「日本は世界一安全な国です!」みたいなのはある種の雰囲気、幻想ですよね。
安田
そうですよね。国というのは元々あったものじゃなくて、皆あまりに奪い合ったり戦ったりするから作ったものなわけで。ここからここまではウチの国です、だから入ってこないでねという。

鈴木
日本は島国だからまだわかりやすいですけどね。境界がはっきりしてるから。
安田
でも、たとえば新宿区と板橋区の間には軍隊がいないじゃないですか。東京都と神奈川県の間にもいない。なんで国っていう単位のくくりにだけ軍隊があるのかっていうのが不思議で。

鈴木
なるほど。あまり考えたことはなかったけど、言われてみればそうですね。
安田
私なんかはもう、鈴木さんには国を捨ててもらって、美濃加茂のことだけを考えて生きていって欲しいんですけど(笑)。

鈴木
笑。まあでも実際、昔は地域が我が国って感じだったわけですよね。今はそれがなくなって、日本という大きなくくりになってますけど。
安田
確かに。それで言うとハワイとかはどうなんでしょうね。ハワイってアメリカの州の一つではあるけど、ハワイの人は「自分はアメリカ人だ」って思ってるのか。

鈴木
その理屈だと、この先たとえば中国の一部になるようなことがあったら、「自分は中国人だ」ということになる。
安田
ですよね。だから土地って不思議なんですよ。土地を所有する時は、ここからここまでは私のもの、と決めるわけじゃないですか。でも、震災の時に言われてましたけど、大きな津波が来るとどこが誰の土地かわからなくなっちゃう。

鈴木
確かにねえ。そもそも土地を所有するって言っても、地面のほんの上澄みの表面だけの話ですしね。
安田
まさにそうなんです。だから私、自分で土地や家を買った経験がないんですよ。それらを所有するっていうことの意味がわからない。

鈴木
まあ、ここは自分の土地ですよ、っていうのを自分以外の人間に認めてもらうってことですよね。……とはいえ、「月の土地を買いませんか」みたいな話を聞くと、いやそれ誰が決めたの、となりますけど(笑)。
安田
あれは月の土地についての協会を最初に作った人が認めてるみたいです。皆が認めている協会が認めているから大丈夫、っていう理屈なんでしょう。

鈴木
そう聞くとやっぱり「幻想」だなあ(笑)。さっき言っていたお金とかの話とまったく同じだ。
安田
結婚とかも同じだと思うんですよ。自分以外の人たちに「私たちは公の正しい夫婦です」ということを宣言するために結婚するんであって、仮に自分たち2人しかいない世界だったら、結婚なんて必要ない。

鈴木
確かに。2人しかいないなら別に誰かに認めて貰う必要はないもんね。
安田
でしょう?そう考えていくと、幻想じゃないものなんて果たしてあるのかな、なんて思っちゃう。

鈴木
なぜ人間はそういう幻想を必要とするんでしょうね。今の話を聞いてると、やっぱり他人をコントロールするためなのかなって気はしますけど。
安田
私もそう思うんですよ。たとえば美味しいとんかつ屋でご飯を食べましたと。そのお礼として紙切れを渡すと、とんかつ屋の親父さんは「ありがとうございました!」となる。でも冷静に考えると、親父さんだいぶ損してませんか、と(笑)。

鈴木
笑。紙切れととんかつと、どっちが価値があるのかって話ですね。まあ、それも親父さんが紙切れのことを信用しているからで。
安田
社員が社長の言うことを聞くのも、「社長の言うことをきかないとお給料がもらえない」と信じてるからですよね。

鈴木
そうですね。国が勝手に税金とか社会保険料を取っていくのも、「それが決まりだからしょうがない」って感じですもんね。
安田
ええ。そう考えると「幻想は大衆をコントールするためのもの」というのは信憑性があると思います。

鈴木
都市伝説っぽい話ですけど、今回のコロナもね、そういう側面があるんじゃないかと思ってまして。今振り返ってみても、「一体あの3年間はなんだったんだろう」なんて思いますもん。
安田
日本人が恐ろしいのは、何だったんだろうと思ってもそれを振り返らず、誰の責任にもせず、そのままなかったことのように進んじゃうところですよね。

鈴木
他の国はどうなんでしょうね。ちゃんと検証して繰り返さないようにするのかな。
安田
でも、プーチンもああやって隣国に攻め込んだりしてるわけですからね。プーチンが命令したからって、なんで皆あんな嫌なことに従うんだろうとは思いますけど。

鈴木
結局それも幻想の話で、プーチンが権限を持っているってことを皆が信じているからですよね。従わないと自分たちの生活が脅かされるかもしれない、と信じている。
安田
そういうことですよね。一方で、そういう幻想を信じることで秩序が成り立っているとも言える。でもね、私はどんな幻想にも終りが来るんじゃないかと思っていて。例えば「国」というのもいつか終わるんじゃないかと。

鈴木
そうかもしれませんね。そしてまた新しい幻想が登場するのかも(笑)。
安田
まさに私もそう思うんです。国、あるいはお金っていう幻想が終わったら、きっとまた新しい幻想が出てくる。その新しい幻想を私は見たいんです。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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