さよなら採用ビジネス 第60回「銀行はいつ終わったのか」

この記事について

7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第59回『部分最適の間違った答え』

 第60回「銀行はいつ終わったのか」 


安田

銀行のリストラが急激に進んでいますね。

石塚

遅きに失した感はありますけど。

安田

「地銀はもう手遅れだ」って石塚さんおっしゃってますよね。

石塚

はい。もう手遅れだと思います。

安田

銀行員は「文系総合職から理系のエンジニアに変わっていく」と言われてます。これはどうなんですか?

石塚

そのとおりだと思います。

安田

いわゆる今までのような総合職は、もういらないと。

石塚

80年代から平成の初頭まで「日本は世界で勝ってる」みたいに錯覚してたわけですよ。「アメリカからもう学ぶものはない」とか。

安田

アメリカの象徴である「エンパイアステートビル」を買収した頃ですね。

石塚

歴史って常に繰り返すんですよ。

安田

どういう意味ですか?

石塚

たとえば遣唐使の廃止も菅原道真が「もう唐から学ぶものはない。遣唐使なんかやめよう」って決めちゃった。

安田

そうだったんですか。

石塚

受験で覚えませんでした?「白紙に戻す遣唐使」で894年。

安田

よく覚えてますね(笑)

石塚

そこから進歩してないっていう。たしかにアメリカは80年代「双子の赤字」に苦しんでました。

安田

私がアメリカに行った頃ですね。レーガン政権の時。

石塚

その頃アメリカでは金融工学がスタートしたわけです。

安田

当時アメリカでは、日本の商社や銀行が「ブイブイ言わせて」ましたよ。

石塚

もう、勝った気でいたんですよ。

安田

でもそうじゃなかったと?

石塚

90年代に入ると、金融工学でノーベル経済学賞をもらった人間がやってるファンドが、次々と出てくる。

安田

そこから巻き返しが始まる?

石塚

実は金融工学って80年代にスタートしてました。コンピュータ技術による高速取引とか、相場をいち早く予測するプログラミングとか。

安田

じつは一度も勝ってなかったってことですか?

石塚

その通り。その事実を一顧だにせず、「日本的経営こそが素晴らしくて、もうアメリカから学ぶものはない!」って言ってたのが、まさにバブルの絶頂期。

安田

ぜんぜん歴史から学んでませんね。

石塚

でしょ?その結果90年代に入って急坂を転げ落ちるんです。

安田

慢心してたと。

石塚

“勝って兜の緒を締めよ”で、「アメリカに金融工学を学べ。まだまだアメリカから学ぶことがある」ってやってたら、今こんなことになってなかった。

安田

ということは日本の銀行は、その頃からあまり変わってないってことですか?

石塚

まったく変わってないです。

安田

いまだに文系の総合職が「お客さんと交渉して」みたいなことをやってると。

石塚

いや安田さん、もう交渉すらしてないですよ。融資も全部自動化されて、貸借対照表を3期分突っ込むと13段階にランク付けされるんですよ。

安田

それは金融工学ではない?

石塚

ぜんぜん違います。単に自動化してしまっただけ。だから誰にでもできる。僕でもできるし、中学生でもできる。

安田

アメリカでは「バンカー」って結構高い地位にいますけど。自分の権限で投資したり、大きなお金を動かしたり。日本にはそういうバンカーはいないんですか?

石塚

日本の銀行は仕組み上、そういう人材が生まれてこないんですよ。

安田

そういう人は出世できないってことですか?

石塚

いたとしても若手のときに外資系に転職してしまう。メガバンクで40代過ぎて超優秀な人なんて、本当にごくごく一握りですね。

安田

「銀行を辞めても一声かければ100億1,000億のファンドはいつでも」みたいな人はいない?

石塚

いないです。そんな人。

安田
あんなに優秀な人をたくさん採用してるのに。彼らは入社後に何をやってるんですか?
石塚

作業をやってますね。

安田

コンピュータが指示した通りに作業してるってことですか?

石塚

そうです、現場は。

安田

それしかやってないんですか?

石塚

あとは社内政治。

安田

昔は支店長がすごい権限を持ってましたよね?

石塚

もう支店長にそんな権限はないですね。単なる中間マネージャーだと思います。

安田

昔の支店長と今の支店長は、だいぶ違うんですか?

石塚

まったく違いますね。権限がなくなったので。

安田

昔は支店長の決済だけで1億2億はすぐに融資が出ましたよね?

石塚

支店長って、あらゆる意味で「融資得意先の総合経営コンサルタント」であり、事業を承継する場合のアドバイザーでもあったわけですよ。

安田

まさにバンカーだったと。

石塚

はい。

安田

なぜこんなに変わってしまったんですか?

石塚

いま銀行がお金を貸したい先って、お金借りる必要がない会社だから。

安田

リスクを取りたくないってことですか?

石塚

リスク取ろうにもすべてシステム化されてるから。「支店長、これどうしても融資したいんですけど」「与信システムでどう出る?」「こう出てます」「じゃあだめ」みたいな。

安田

支店長いらないですね(笑)

石塚

いらないです。

安田

でも、銀行が理系の人間を増やすってことは、遅ればせながらアメリカの金融工学を追随するってことですよね。

石塚

ネットで完結して、パッと融資を下ろして「焦げ付き率がこれぐらいで済む」っていうモデルをつくろうとしてるんじゃないですか。

安田

それ、ちょっと遅れすぎじゃないですか?もう中国では普通ですよ。

石塚

本来だったら90年代に着手する話ですね。2020年になろうかってときに始めてる時点で、残念ながら終わってるんですよ銀行は。

安田

実はこっそり「アメリカや中国の3歩先行く金融工学を考えてる」なんてことはないですか?

石塚

ないです。これからゆっくり死んでいくだけ。

安田

ゆっくり死んでいくだけ?

石塚

この20年間、すでにゆっくり死んでいってるんですよ。

安田

20年間も何やってたんですか?

石塚

だから作業と社内政治ですよ。

安田

20年間も社内で出世することだけ考えてたってことですか?

石塚

そういうことなんですよ。

安田

ちょっと信じ難いですね。

石塚

だからリストラするぐらいしか、もう方法がないんです。

安田

そんなところに自分の財産を預けといて大丈夫ですか?

石塚

ヤバいでしょうね(笑)



石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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