7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第89回『自覚がないのは誰?』
第90回「確信犯は誰?」
あの「超ブラック」と言われたワタミが、ホワイト企業として表彰されました。
はいはい(笑)
「ついにワタミもホワイト企業になったか」みたいな記事で。でも実は、お金払えば審査が受けられるみたいで「タイトルを金で買ってるだけ」とも言われてます。
じつは僕、昔ワタミさんを担当してたんですよ。
え!どんな会社なんですか?
もう時効だから言っていいと思いますけど、“遠くで見る富士山”ですね。
遠くで見る富士山?遠くから見たら美しいってことですか?
遠くから見たら美しいけど、近くに寄ったら“がれきの山”です。
ゴミだらけってことですか。
目を覆いたくなるような。
でもそれは昔の話ですよね?変わる前の。
僕は会社って、そんなに変わらないと思います。
昔は「365日、死ぬまで働け」みたいな行動指針があったとか。
ありましたね。
「働くこと自体が報酬だ」っていう価値観で。
多くの企業にとってそれが普通の価値観でしたから。
確かに。「24時間働けますか?」ってリゲインのCMが普通に流れてましたもんね。
はい。それ聞いて我々も頑張ったじゃないですか。
そんな雰囲気でしたね。私は苦手でしたけど。
時代は変わりましたよ。安田さんが住みやすい時代になりました。
ワタミも変わったんじゃないですか?
う〜ん。そもそも時代が変わる前から、現場はかなり疲弊してましたから。
じゃあ、現場のモチベーションは当時から低かった?
まあ、疲れますよね。あの会社に勤めてると。
なぜそんなに疲れるんですか?
だって、お店閉めて帰ると2時とか3時ですよ。それでも朝7時からの店長会議に行かなくちゃいけない。
それはちょっと大変ですね。
また厳しいんですよ。この店長会議が。
どんな風に?
「お客様からの声」というカードが、渡邉会長のところに集められていて。
お客様カード?
たとえば僕がA店の店長で「A店にこの間行ったけど、チョコレートパフェ頼んで2時間も出てこなかった」って書いてある。
で、怒られる。
ネチネチと。「おい石塚。チョコレートパフェって2時間もかかるのか?」「なあ、2時間ってどうしてかかるんだ?」みたいな。
うわあ。キツイですね。
それを朝からやるんですよ。傍目で見てるだけで「しんどいな」と思いました。
睡眠不足でそれはしんどい。
会議は7階でやってるんですけど「おまえ、そこからすぐ飛び降りろ!」とか言うんですよ。
恐ろしい。
いまだったら全部アウトな話です。でも新卒の社員ばかりだったので、みんなそれが普通の感覚になってて。
洗脳ですね。
はい。そういう長い社歴の中で洗脳されてきた人たちが、簡単に変わるとは思えない。
今でもそれを「当たり前だ」と思ってる人が幹部になってると?
染まれない人は途中で辞めちゃいますから。それがスタンダードになってる人が上に行く。
なるほど。しかも会長まで戻ってきちゃいましたし。
そうなんです。みんなが「居酒屋事業をなんとかしよう」って必死に支えてたところに。
自分は政治活動やってて、気楽なもんですよね。
「おまえら居酒屋事業にこだわってるからダメなんだ!」って。
いきなりですか?
「ワタミは創業精神で柔軟にいろんな事業をやってきたんだ」って。
自分が散々評判を落としておいて酷いですね。
いつもテレビ映りばっかり気にしてる。
「絶対に戻らない」って言ってましたよね?
「仕方がなく戻ってやった」みたいな感じです。
インタビューでは「俺がいると甘えが出るから」「戻らないと断言しなくちゃいけなかった」って言ってました。
「どっちが甘えてんだ」って感じですよ。社員からしたら。
ですよね。でも社内では相変わらずカリスマなんでしょ?
かつてのカリスマ性はそれはすごかったですよ。
カリスマというより恐怖だったんじゃ?
昔は恐怖というより憧れっていう部分が強かったです。
へえ。そうなんですか。
はい。会うとやられますよ。直筆の手紙来るし。人の心をバッとつかむのは天才的に上手。ただ、ずっと働くのは厳しいです。
それは今でも?
そんなに体制が変わってるとは思えませんね。昔から飲酒運転死亡事故とか、過労死とか、労務問題が山積してる会社なので。
私はべつに外食という事業を否定するつもりはないんですけど。居酒屋チェーンって安さを売りにしてるわけですよね。
もちろん。
「いずれ本部に引き上げる」とか言ったって現場はなくならないわけで。出世してもせいぜい店長って人を量産せざるをえない。
おっしゃるとおり。
店長の給料ってたかが知れてるじゃないですか。「仕事が報酬だ」って言いますけど、じゃあ渡邉さん自身はどうなんだって思っちゃいます。
本人は億万長者ですからね。
そうですよね。自分も同じ給料でやるんだったら説得力あるんですけど。自分はぜんぜん違うわけじゃないですか。
ほんとその通りだと思います。
単なる兵隊ですもんね。社員は。
しかも息子さんを入れたじゃないですか。「昔なんて言ってたんだ、あなたは」って感じ。
「同族はやらない」って言ってたんですか?
そうです。いやもう、僕が見た中でもベスト3に入る搾取企業ですよ、ワタミは。それをどう美しく見せるかっていう。
近くに行ったら死人だらけみたいな(笑)
いやもう、「二百三高地」か「ワタミフードサービス」かっていう感じ。
渡邉さんは自分で「搾取モデルだ」と分かってやってるんですか?
確信犯だと思います。
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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。