2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第189回「足元に迫るクライシス」
ドコモが「社員に賃下げを提案」って。
はい。組合員以外の管理職に「ちょっと申し訳ないけれど、手当てとか給与の仕組みを変えますよ」と。つまり「賃下げします」と。
これって月10万ですか?年間10万ですよね。
いえ。月10万です。
え!月10万って大きいですよ。
いや、大きいですよ。
そんなことできるんですか?いまの日本の法律で。給料じゃなく、手当てだから可能ってことですか。
そうそう。
ドコモは儲かってそうですけどね。
いや、厳しいでしょ、もう。
そうなんですか。
菅さんが「通話料金下げろ」って言ったでしょ。そのぶん利益が減りますし、かつての勢いはもうないですよ。
総理大臣に「料金下げろ」って言われたら、やっぱり下げなきゃいけないんですか。
もともと「日本の携帯料金は高すぎる」って言われてたので。じっさい国際比較では高いから。
言うこと聞かないとどうなるんですか。
許認可業種なので。総務省の許可がないと成り立たない。
「資格取り消すぞ」って話になるんですか。お上の言うことは聞かざるをえない?
そりゃそうですよ。
せっかく利益を出すためにNTTも頑張ってきたのに。
まあ仕方ないでしょうね。
「料金を下げろ」の一声で利益がなくなっちゃうわけですか。
だからNTTは人件費を詰めることを選択したってことですよ。
なるほど。利益を確保するために。
いままで高すぎた人件費にメスを入れる。要するに固定費になっている人件費を変動費化したい。
労働法的に可能なんでしょうか。
もちろんプロに相談してるでしょう。「手当てをこう変えれば、これは仮に訴訟になっても勝てるね」って確証があるはず。
労働法の縛りがなかったら、給料を下げたい会社はいっぱいあるんでしょうね。
もう全社そうじゃないですか(笑)
全社ですか(笑)
少なくとも40代以上はそうでしょう。いまの賃金設計って、上がること前提になってるから。
これから先は、もう上げなきゃいいじゃないですか。上げ幅を少なくするとか。
上がるかどうかより、評価の差がつかないことが問題なんです。みんな同じようにちょっとずつ上がっていくから。しかも大企業はその平均が高いから。
ちゃんと評価して上げる分には問題ないと。
総額人件費が固定費化してしまうことが問題なんです。学卒が40になるまでと40から定年までって、ほぼ同じじゃないですか。いわばサラリーマンの前半と後半で。
そうですね。
前半はまあ人件費安くよく働いてくれると。でも後半は人件費が高いのにパフォーマンスが悪い。単純にこの話なわけですよ。
前半の貯金では後半は乗り切れないですか。
今はもう乗り切れない。
ということは前半が安いわけじゃなくて、それが妥当な金額だと。
おっしゃる通り。
40歳まで上がって、そこを過ぎたら下がっていくのが正しい。
パフォーマンスには合ってますね。
まあ人によるんでしょうけど。
全体で見たらそうなってしまうわけです。ビジネスの寿命がこんなに短くなると、労働寿命の長さと合わないわけです。
全体を上げ続けるのはもう無理でしょうね。
1社に終身雇用させるっていう考え自体が、もう時代に合っていないです。
40歳から給料が下がり続ける前提なら可能ですよね。
だけどそれは法律が許さない。となれば手当てをいじっていくしかない。NTTドコモの精一杯な施策なんじゃないですか。
なるほど。
かねがね言ってるように、日本は全員有期雇用にして、最長10年にするべき。そしたら正規だ非正規だという、くだらん話もなくなるし。
国としては働く人の給料を増やしたいんですよね。
増やしたいでしょうね。
でも会社は給料を増やしたくない。
全体の人件費は抑えたい。だから希望退職を実施してるわけで。
できる人の給料を増やそうと思ったら、それしか方法ないですよね。
だから国も、雇用を流動化させようと必死になってるんです。
1回市場に出して鍛え直してもらって、増えるように頑張れと。
ひとつの会社に20年以上勤務すると、間違いなく劣化が始まります。
終身雇用によって、逆に生涯賃金を下げてしまうと。
そうなんです。「1社からサラリーを貰い続けるのはリスクだ」って、そろそろみんな気づかないといけない。
常識的に考えたら人間の能力って、どこかで頭打ちになりますもんね。
おっしゃる通り。
外資だと、できる人は30代ぐらいで一気に稼ぎが増えて、そこから先はだいたい横ばいになっていきますよね。
若いうちにスキルを高めていかに長く維持するかです。
なぜ日本企業は上げ続ける決断をしたんでしょうね。いつか破綻するに決まってるのに。
もはや破綻してますけど。
だけど働いてる人はそう思ってないですよね。正規雇用がいちばん安泰だといまだに信じていて。
戦後の洗脳があまりにも強烈だったので。「1社で勤め上げることこそが美徳だ」って、今でも40代以上は確信してますから。
だから自分の子供にも受験を頑張らせるんでしょうね。
いい会社に入って、一戸建ての家を建てて。いまだにその洗脳が解けてないんですよ。
もうそういう時代じゃないのに。
どんなに業績が好調な会社でも、すぐ足元にまでクライシスが迫ってきてます。
そんな状態でも、自分の子供に同じことをさせるんですか。
足元が見えてないんですよ。洗脳が強すぎて見えなくなってるんです。
もう崩れ始めてるのに。
もうグラグラなんですけどね。それでも自分は落ちないって信じてるんです。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。