7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第27回 「野球とベースボールの違い」
いずれ「解雇規制」も緩和されるんじゃないかと、言われてますよね。
僕はそのほうがいいと思います。
簡単に解雇できるようになったら、企業は「退職金」を払わなくなるんですかね?
いや、むしろ「お金を積んでお引き取りねがいます」ってなるでしょうね。
そうですか?
お金で解決する方が、楽じゃないですか。
変に揉めるより?
そう。「悪りぃ。お金払うから」みたいな感じで。
なるほど。
「要件満たせば企業側から雇用契約を終了できる」という法令は、時間の問題で出来ますよ。
その金額は、どのぐらいになると思います
うーん、どうでしょうね。算定したことはないんですけど大企業なら3,000万前後じゃないですか。業種にもよりますけど。
結構払うんですね。
それくらい払えば揉めないでしょ。住宅ローンの残金払えて、老後資金で1,000万残るくらい。
もし、そういう法改正が通ったら、40歳あたりが解雇のメドになるんでしょうか?
そのくらいでしょうね。
会社から「君は残ってくれ」と言われるのは、何割ぐらいですかね。
1割いないぐらいじゃないですか。
1割いない?
はい。
じゃあ、40〜50代の会社員が、大量に社会に出てくる。その人たちは、どうなっていくんでしょう?
そのままだったら、溺死しますね。
溺死する?
まず大企業を辞めた人が、また大企業に行ける可能性は、ものすごく低いですよね。
それは低そうですね。
おそらく国は、そういう優秀な人を、まあ、何が優秀かって定義は置いといて……
いい大学を出てる人たちですね(笑)
そうです。いい大学を出て、有名企業に入った人たち。それが霞が関の定義する優秀な人材。
国は「そういう人たち」を、どうするんですか?
そういう優秀な人材を「中小企業にマッチさせよう」と考えてるわけですよ。
やっぱりそうですよね。
はい。僕も何回か中小企業庁に呼ばれて、散々ヒアリングされました。
どうでした?霞が関の人たちは?
一言でいうと、実態が全くわかってない。
どういう部分が、分かっていないんですか?
まず「中小企業」と「大企業から出た人材」は、基本的にほとんどマッチしません。
しませんか?
しませんね。
どうしてなんですか?
仕事の質の違いに驚いて、ついてけないんですよ。基礎的なレベルが違いすぎるので。
基礎的なレベル?
たとえば仕組み化もしてないし、マニュアル化も出来てないし、IT化も進んでない。仕事が属人的になっていて、何がどうなのかよくわからない。
じゃあ「大企業での仕事」と「中小企業での仕事」は、まったく違うものだと思ったほうがいいですか?
まったく違います。中小企業でいちばん求められるのは、総合力と人間力ですから。
それって、大企業でも必要なスキルじゃないんですか?
大企業は細分化されているので、求められるのはその分野の専門性。
そうなんですか?
たとえば銀行出身の方って、なぜか全員「オレは経理ができる」って言うんですけど、はっきり言って出来ません。
できませんか(笑)
出来上がった決算書をもとに分析することはできます。しかし、伝票起票から仕訳して、月次や四半期、半期、年次の決算を締めて税金を払う業務は、やったことがない。
やったことないと、出来ないもんなんですか?
実務の経験がないと、まずついていけない。大企業出身者はすぐに「自分の下に1人つけて欲しい」と実務やる人を置きたがる。
なるほど。自分では出来ないと。
大企業の40〜50代って、もう自分で実務やらなくなって久しいので。実務やってたのはせいぜい30代まで。
実務ができなくなっちゃってる?
できなくなってますね。中小企業に行くとまったく逆で、1人で何でもやんなきゃいけない。
人がいませんもんね。
普通の中小企業の経理責任者は、経理・財務・総務・人事・労務、このへんは兼務ですね。で、当然、主計業務から銀行折衝までやります。判断は経営者がやりますけど。
逆はどうなんですか?中小企業で優秀な人は、大手に行っても通用するんですか?
まず採用されませんね。
どうしてですか?
そもそもバカにしてますから、大企業は。
どういう部分を、バカにしてるんですか?
「格が違う」って思ってるんですよ。
格?
「下町ロケット」ご覧になりました?
見ました!
まさに「帝国重工と佃製作所」みたいな関係なんですよ。
見下してる?
今の20代はどうかわかりませんけど、少なくとも40代以上は「中小企業なんてオレが行ったらすぐできる」って全員思ってますよ。
思ってますかね?
ぼくらの古巣のリクルートだって「中小企業の人事総務なんてすぐ責任者務まる」ってみんな思ってますけど、言っときますけど務まりませんよ。
たしかに。採用責任者として引っ張られて「結果、何も出来なかった」という人、結構聞きますよね。
はい。実名こそ挙げませんけど、たくさん知ってます。
どうしてなんでしょうね?ずっと採用に携わってんのに。
大企業と中小企業って、野球とベースボールぐらい違うんですよ。
野球とベースボールって、同じじゃないんですか?
別のスポーツですね。だからメジャー流でやろうとすると、日本では通用しない。
たまに通用する人いるじゃないですか。メジャーで通用しなかった人が日本に来て活躍したり。それは元々適性があったってことですか?
適応したってことだと思います。
日本からメジャーに行って活躍する人も、そうなんですか?
あのイチローでさえ、最初からフォーム変えたじゃないですか。
確かにそうですね。
でも、それができるのがすごいですよ。普通はあれだけ日本で結果出したら、フォームなんて変えられないです。
なるほど。だから「通用する人としない人」がいるわけですね。
マー君もそう、大谷翔平もそう。通用する人って、みんな適応してるじゃないですか。
ということは、適応力があれば「大企業出身者も中小企業で活躍できる」ってことですよね?
理論上は。
現実的には無理だと?
今までのことを綺麗さっぱり忘れて「ゼロから中小企業でやり直します」なんて人、まずいませんよ。
プライドの問題ですか?
それもありますし、みんな自分の専門性が通じると思ってますから。
中小では通じない?
専門性で総合力をカバーできるほど、甘いもんじゃないんで。
でもカバーできると思ってる?
リクルート出身者も、採用の専門性で「中小企業の人事総務」を補完できると思って行くから、みんな失敗するわけですよ。
なるほど。
ただ、大企業出身の方でも、適応して成功される方が稀にいます。
どんな人ですか?
そういう方に共通するのは、30代とか早い段階で「傍流とか子会社」に行かされて、修羅場経験を踏んでる人。
子会社行く人って、主流から外れてるイメージがあるんですけど。
その通り。外れてます。
それは能力の問題ではないと?
大企業って、べつに「能力があるから出世する」とは限らないんですよ。左遷もまた然り。
どういうことですか?
たぶんに政治的なもの。「オレは役員の安田さんの虎の尾を踏んでしまった」とか。
本当に、そんな「下町ロケット」みたいなの、あるんですか?
めちゃくちゃありますよ。だって、好き嫌いじゃないですか。基本的に大手の人事なんて。
なんと!そりゃ業績おかしくもなりますね。
なるべくして、なってるんですよ。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。