7年前に採用ビジネスやめた安田佳生と、今年に入って採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第42回「生き残ればひとり勝ち」
第43回「プロファイルの極意」
求人票をつくるときのポイントを教えて欲しいんですが。
とにかく「求職者目線」でつくることですね。
よく「求職者の立場で考えなきゃいけない」って言うじゃないですか。
はい。それが基本ですね。
具体的にどう違うんですか?「企業目線の求人票」と「求職者目線の求人票」って。
まずシンプルに言うと「何やってる会社なのか」「どういう仕事なのか」という説明が、すべて予定調和なんですよ。
予定調和?
つまり「もうこのレベルは分かってるよね」っていう。
知識があること前提で、説明してるってことですか?
そうです。たとえば配送の仕事も、その会社によって違うじゃないですか。
単にドライバーとかじゃなくて。
今どき「ドライバー募集」とか書いてたら、絶対採用できないですよ。
まあ、ドライバー採用は難しいですよね。
いや、そうじゃないんです。ドライバーという職種だから採用できないわけではない。
やりようによっては採れると。
現に採れてます。採れないのは「何を運ぶ会社か」「何をやってもらう仕事か」というのが分かりづらいから。
そのぐらいは書いてそうですけどね。
書いてあるんですよ。でもこれがやっぱり求職者目線じゃなくて、すごく企業目線。
たとえば?
もし中学2年生が社会科見学に来て「ゼロから説明する」ってなったら、違う説明しますよね。
確かに。
前提知識のない人に「よく分かってもらう」ってのは、簡単そうで難しいんですよ。
たとえば営業だったら「ルートセールスです」とか「企画営業です」とか、それなりに分かりやすく書いてますけど。これもダメですか?
話になりませんね。
じゃあ、営業だったらどう書けばいいんですか?
営業のやり方だって、いろいろあるじゃないですか。
いろいろ?
たとえば新規開拓するのに、紹介なのか、イベント集客営業なのか、広告打っての反響営業のか。それによってターゲットは変わりますよね。
そんなに細かく変えるんですか。
当然です。そもそも「これ、営業じゃないですよね?」っていう営業職も、結構世の中には多いんですよ。
営業じゃない営業?
「これ、要は定期的にお客様のところに行って、契約更新の確認するだけの仕事でしょ」と。
言われてみれば、確かにそうですね。
それによって、好き嫌いとか、得意不得意って、変わるじゃないですか。
ガンガン電話するのが得意な人もいれば、そうじゃない人もいる。
ガンガン電話はできないけど、「コツコツメール打つのは得意」って人が成果をあげる営業職もあるわけですよ。
なるほど。それをひとくくりに「営業職」にしちゃうと、誰が向いてるのかわからないってことですね。
そうです。で、次に重要なのは「求職者が欲しいのに、企業がいちばん出さない」情報。
ネガティブな情報ってことですか?
いや、違います。「こんな人が応募できますよ」という情報を載せるってこと。
え?それはさすがに載せてるでしょ。
これが載ってないんですよ。「この仕事には、こんな人がもちろん応募できますよ」っていうのが、まずほとんど書いてない。
資格でくくれる仕事は分かりやすいじゃないですか。でも営業の仕事とかって、分かりにくいでしょ。
「求めている人材」が分かりにくいってことですか?
「応募していいのかどうか分からない」ってことです。
応募していいかどうか?
たとえば「営業経験がある人優遇」とか書きますよね。
はい。書きますよね。普通に。
そうすると「一定レベルの営業経験がないと、難しいのかな」って思うじゃないですか。
まあ、思う人もいるでしょうけど。
要は、求職者からすると「分かりにくい」ってことなんですよ。で、よく分からない仕事には、応募なんかしない。
なるほど。よくわかる仕事の中から選ぶってことですね。
求人情報って溢れてますよね?
はい。溢れてます。
でも「こんな人にピッタリ向いてます」っていうのを分かりやすく説明してる求人って、全体の1割もないんですよ。
そんなに少ないんですか?
安田さんも採用業界長いですけど、おなじみの採用条件の書き方ってあるじゃないですか。
ありますね、はい。風通しのいい社風とか、やりがいとか。まあ、どこの会社も似たようなものになっちゃいますけど。
ですよね。どの求人も同じ。そうすると、それを見てもよくわからない。
何が分かればいいんですか?
これは「私にぴったりの求人だ」ってことが、まっさらな人にも分かる。そこが最大のポイント。
まっさらな人ですか?即戦力で、うちのビジネスモデルにピッタリで、経験もあって、能力もあって……っていう人が欲しいと思うんですけど。
そんな夢のような即戦力採用は不可能ですよね?
まず無理ですね。だから「未経験だけど、ウチの仕事にピッタリ合いそうな人」を見つけることが大事だと。
おっしゃるとおり。そこが超重要です。
で、未経験なだけに「どういう人が向いてるか」が、選ぶ側にも分からないと。
そういうことですね。
そこを分かりやすく見せてあげれば、応募者が増える。
そうなんですよ。とにかく親切に、分かりやすく書くこと。
たとえば「未経験歓迎!どんな人でも大丈夫!」って書いておくのはどうなんですか。
そんなの怖くて行けないじゃないですか。
そうですか?
だって、値段が書いてない寿司屋みたいなもんですよ。安田さん、入れます?
いや、怖いです(笑)
それと、もうひとつ。ターゲットの人数が多ければ多いほど「応募が少なくなる」ということ。
それは、どうしてなんですか?
刺さり方が弱くなるからです。
「私に対する求人だ」って、捉えてもらいにくくなるということですね。
そういうことです。過去の経験とか、性格とかタイプによって、誰に対する求人かを分かりやすくする。
たとえば?
直近の例で言うと、「中学・高校を欠席したことがない人」というのやりました。
真面目ってことですか?
「部活もいまいち、勉強も苦手、だけど考えてみたら中学・高校、俺、休んだことないなぁ。そんなあなたに、うちの会社とこの仕事はピッタリです」って、はっきり書く。
そこまで絞り込むんですか?
そのほうが「俺だよ、これ」って分かるじゃないですか。
なるほど。
私は最低でも、そのエリアにいるターゲットが10人以下になるまで絞り込みます。
でも、絞りすぎてゼロになっちゃったらダメなわけでしょ?
もちろん。そこがプロファイリングの難しいところです。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。