第48回「そこに覚悟はあるのか?」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第48回「そこに覚悟はあるのか?」

安田

勤務中にゲームした人が解雇になったの知ってます?

久野

知ってます。あれいつでしたっけ。

安田

ちょっと前の話なんですけど。ゲームとか旅行の予約とかしてたそうです。

久野

勤務中に?

安田

はい。それで解雇になったらしいんですけど、解雇された人が「こんなので解雇はおかしい」って訴えたわけです。

久野

解雇したくなる気持ちは分かりますよね(笑)

安田

解雇無効と賃金の支払いを求めたそうで、結局4カ月分の給与払うことになった。

久野

退職はしなかったんですか?

安田

一応退職はしました。

久野

じゃあ成功したほうじゃないですか。一番最悪なのは居残られて、なおかつ何カ月か休んだ分まで払わされるケース。

安田

そうなんですか。経営者の立場からしたら「仕事中にゲームしててもクビにできないのか!」って感じですけど。

久野

もともと解雇自体を許してないですからね、日本の法律は。

安田

ゲームしてても?

久野

解雇には合理的な理由が必要でして。ひとつは就業規則に明記されてるかどうか。もうひとつは社会通念上、相当かどうか。

安田

就業規則に書いてればOKってことですか?

久野

書いていて、なおかつ社会通念上相当であるかどうか。

安田

たとえばどんな場合ですか?

久野

たとえば仕事で車の運転をするのに、二日酔いで通勤してきたみたいな。

安田

まったくやる気なしですね(笑)

久野

どう考えても運送系の会社で働く意識じゃないと判断できる。

安田

でもその理屈で言ったら会社でゲームやるのは、運送の会社に酒飲んで行くのとほとんど変わらないと思うんですけど。

久野

確かに。変わらないですね。

安田

でも解雇できなかったんですよ。「それぐらいでは解雇できません」ってことになって、仕事もしてないのに4カ月分も払わされて。

久野

理不尽だとは思うんですけど、企業側から見ると。

安田

理不尽すぎますよ。それほどまでに日本は労働者寄りってことですか。

久野

本当にそれぐらい厳しいです。もう「解雇はできない」っていう意識で採用しなきゃいけない。それが日本の労働法なんです。

安田

でも、そこまで考えて採用する経営者って、あまりいない気がするんですけど。

久野

いないですね。

安田

大手と違って中小企業だと、そこまで揉めるイメージが湧かないんでしょうね。

久野

そう思います。

安田

「もうクビだ」とか「明日から来るな」とか言われて、そのまま辞めていくケースもいっぱいあったと思います。

久野

これまでも揉めるケースはありましたけど、少なかったですね。

安田

今後は中小企業でも揉めるケースが増えますか?

久野

すでに増えてます。しかもかなりの数。

安田

何がきっかけで変わったんですか?

久野

ひとつはネット情報ですね。「解雇になると金が取れる」っていうのを知ってる。

安田

恐ろしい。

久野

ひと昔前は会社から「辞めて」って言われたら、プライドもあるし「自分って頼られてないな」と感じて辞めてたんです。

安田

でも今は違うと。

久野

今は経営者が解雇できないことを知ってるので。ある意味ゲーム感覚ですね。

安田

ゲーム感覚?

久野

「社長、今のお言葉、解雇ってことですか?」「今、辞めろって言いましたよね」って確認して来る。

安田

「解雇」って言われたらラッキーと。お金取れるぞと。

久野

メールとかで平気で聞いてきます。「今のは解雇ってことでいいですか」って。

安田

そこで社長が「解雇だ!」って言っちゃたら大変なことになると。

久野

まず会社に来なくなって、LINEが未読になって、数カ月後に弁護士から「従業員の地位たる請求」みたいものが届きます。

安田

届いたらどうなるんですか?

久野

「私は従業員です」ってことで、まずその期間の給与の補償を求められます。

安田

揉めてる間も払わないといけないってことですよね。

久野

そうです。本来行きたかったのに行けなかったって。

安田

それでも最終的に辞めてくれたら、まだいいほうだと。

久野

はい。戻ってきちゃう可能性もあるので。

安田

今後どうしたらいいんですか?経営者さんは。就業規則に「俺がクビだと言ったらクビ」みたいなことは入れられないですか。

久野

入れられないですね(笑)

安田

どんなに営業成績が悪くても会社でゲームやってても、クビにできないと。

久野

実際、喫茶店とかでサボってる営業マンって、いっぱいいますから。

安田

ゲームやってるのと変わんないと(笑)

久野

成果上げてなくても解雇できませんからね。経営者からしたら恐ろしいです。

安田

どうしたらいいんですか?もし会社で仕事中にゲームやってる社員を見かけたら。クビだとは言えないわけでしょ。

久野

まずゲームやってる時点で基本的に労働契約違反なんですよ。

安田

そりゃあそうでしょ。ゲームさせるために雇ってるわけじゃない。

久野

だからそこに対しては給与を払う必要がないんです。

安田

給与を減額できるってことですか?

久野

はい。

安田

たったそれだけ?しかもゲームやってる時間を計ってその分給与減らすって、かなり大変ですよ。

久野

まずゲームをやれない状況をつくんなきゃいけない。

安田

でも何をもってゲームかっていうのも難しいですよ。だってみんなスマホ持ってるじゃないですか。ゲームしてるのかお客さんにメールしてるのか分からない。

久野

確かに。営業中にポケモンGoやってる人、結構いますからね。

安田

もう社長はどうしたらいいか分からないですね。

久野

ちょっと答えになってないかもしれないですけど、退職をお願いするしかない。

安田

社員にお願いして辞めてもらうってことですか?

久野

はい。クビは絶対駄目なので。解雇と退職勧奨ってぜんぜん違うんですよ。

安田

どう違うんですか?

久野

一方的に辞めさせるのがクビ。退職勧奨は「辞めてもらえますか」「これ以上難しいんじゃないですか」と尋ねること。

安田

じゃお願いする分にはオッケー?

久野

オッケーです。

安田

頼むから辞めてくれと。

久野

はい。

安田

それでも「辞めません」って言われたら?

久野

お金で解決するしかないです。1年分払うから辞めてくれないかって。

安田

そのぐらいの覚悟を持って人を採らなきゃ駄目ってことですね。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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