第197回 給料を上げるしかない

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第197回「給料を上げるしかない」


安田

もう日本では賃金が上がらないから、海外に出稼ぎに行く人が増えているそうです。

久野

そうなんですよ。

安田

アメリカやオーストラリアはもちろん、中国やアジア諸国に出稼ぎに行く人もいて。

久野

とくに今は円安ですし、東南アジアだと生活費も高くないし。

安田

欧米はかなり物価が高いですけど。

久野

物価は高いですけど、それ以上に報酬が増えてます。

安田

日本で年収400万だった寿司職人さんが、海外で最大2700万ですって。

久野

うちのお客さんも、マイアミで寿司屋をやってるんですけど。日本よりぜんぜん稼げるし、連れて行った寿司職人もすごく喜んでるみたいです。

安田

日本で稼ぐのはもう難しいんでしょうか。

久野

少しぐらい給料が増えても物価高で吸収されちゃいますね。円安の影響で物価がどんどん高くなってるので。

安田

海外から来る人にとって円安は嬉しいでしょうけど。

久野

海外で稼ぐ人にとっても嬉しいです。その分、収入が増えるってことですから。

安田

1ドル100円が150円になったら、年収1.5倍ですもんね。海外で稼いで円に交換すれば。

久野

そうなんですよ。このままだと若い優秀な人がどんどん海外に行っちゃいます。

安田

日本は平均年収が先進国最下位と言われてますけど。またどこかで伸びていくんでしょうか。

久野

最後のチャンスが来てるんじゃないですか。給料を増やせるかどうかの。

安田

ちょっとぐらい増やしてもダメなんですよね?

久野

はい。一気に上げていかないと。ここで増やせなかったらもうダメですね。でも変な国ですよ。今まで「物価上げろ」ってさんざん言ってきたのに。

安田

確かに。

久野

物価が上がった瞬間に「これは問題だ」って。

安田

物価と同時に給料も上がる予定だったのが、物価だけが上がったから。

久野

円安の原料高による値上げですから。値上げしても給料は増やせないです。

安田

普通に考えたら円安になりますよね。一人当たりの生産性が低くて、国力が低いんだから。通貨も下がるに決まってる。

久野

そうなんですよ。だけど円が弱くなると輸入品の値段が上がるから。物価も上がって苦しくなっていきます。

安田

貧乏になるべくして貧乏になってますね。

久野

ここで企業がやらなきゃいけないことは、給料をあげることです。

安田

上げますかね。これだけ先が見えない状況で。

久野

日本人は横を見ちゃうからダメなんです。嫌だけど、振り切って給与を上げる会社が出てこないと。イノベーションが起きない。

安田

誰かが先陣を切るしかないと。

久野

それを追ってみんな給料を上げ始める。結果的に払えない会社が潰れていく。

安田

潰れる会社がたくさん出てきそうですね。

久野

仕方ないです。今の日本はいびつ過ぎるので。人不足なのに給与が上がらない国なんて日本ぐらいですよ。

安田

不思議ですよね。みんな文句を言いながら我慢してしまう。

久野

だから本当の意味で流動化が起きないんです。

安田

流動化が起きれば給料は増えていきますか? 

久野

じっさい海外では、そうやって上がっていってます。

安田

そうなんですね。

久野

「あっちの給与が高くなったらしいぞ」って、ばーっといなくなって。またこっちが上がるとばーっと戻ってくる。入れ替わりながら報酬が上がっていくんです。

安田

なるほど。

久野

だからオペレーションも汎用的じゃないといけない。

安田

代わりが効く仕組みが大事ってことですね。

久野

日本の中小企業は同じ人がずっといる前提なので。辞められないし移動する発想にならない。

安田

辞めるのは自由なのに。なぜもっと待遇のいいところに移らないのか。

久野

仕事がなくなるのが怖いんでしょうね。

安田

でも労働人口は減ってるわけで。もっと条件のいい仕事を選べるんじゃないですか。

久野

じつは就業者人口はずっと増え続けてるんです。労働力人口は減り続けてるんですけど。

安田

え!それはどういう理屈で?

久野

高齢者も働かなくちゃいけないし、共働きも当たり前になっているので。労働に参加する人がどんどん増えてるわけです。

安田

なるほど。それで仕事の取り合いになって。

久野

それで賃金が上がらなくて、みんな貧乏になっているという考察があります。

安田

給料が減ったら海外なら転職するけど、日本は奥さんが働きに出てカバーしちゃう。

久野

そういう状況が起きてるんだと思います。

安田

でもどこかで限界は来ますよね。

久野

さすがにもう限界だと思います。

安田

次は外国人を引っ張ってくると言ってますけど。

久野

海外の労働者からも見放され始めてます。

安田

「もう日本に行っても稼げないぞ」みたいな。

久野

はい。労働条件も良くないし。円安だし。

安田

日本に外国人を呼んで働いてもらおうなんて、とんだお門違いですね。

久野

日本のためにも、もう来ない方がいいです。本当に人不足だと真剣に設備投資したり、給料を増やしたりするはずなので。

安田

ずっと先延ばしにし続けてますよね。

久野

10年前20年前の機械をいまだに使い続けてる中小企業も多いです。

安田

それだけ余裕がないってことでしょうね。どんどん給料を増やす経営者なんて1割にも満たないですよ。

久野

だけどそこを増やさないと。もう日本はジリ貧です。

安田

久野さんの周りの経営者は、設備投資や人件費を増やそうとしてますか。

久野

どちらかと言えば下げようとしてますね(笑)

安田

そうでしょう(笑)いかに人件費を下げて儲けを出すか。

久野

それは「儲け」とは言わないです。

安田

「節約」って感じでしょうか。

久野

何のために会社をやってるのか、もう一度考えないと。

安田

もう社員のためにやってる余裕はないんじゃないですか。下手したら社長の方が貧乏だったりしますので。

久野

だけどこのままだとジリ貧ですよ。

安田

一発逆転のいい手はないんですか? 公共工事を増やしても駄目だし。

久野

まずは鎖国を解かないと。

安田

コロナの入国制限ですか?

久野

はい。マスクもそろそろちゃんと考えないと。日本は物が安くて、サービスが良くて、治安もいいので。観光はすごくいいと思います。

安田

海外からどんどん人が来て、お金も使ってくれて、日本人の収入も増えて。

久野

それが理想的ですよね。

安田

最終的には外国人頼みですね。ちょっと悲しいです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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