泉一也の『日本人の取扱説明書』第114回「ほぐす国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第114回「ほぐす国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

以前どこかで書いた様な氣がするが、日本語に「漢字」が残った理由。

お隣の韓国では以前、漢字はよく使われていたが、今はほぼ使われて無い。表音文字であるハングル文字が中心となった。韓国の新聞を見ると、多くの新聞はハングル一色である。日本語でいうとひらがなとカタカナに近い文字である。

日本語の漢字は、常用漢字で2136個あり、全漢字では10万以上ある。この超難しい漢字を使い続けてこられたのは、「訓読み」を発明したからだ。その分、漢字の読み方を難しくしてしまったのだが・・

文字だけでもひらがな、カタカナ、漢字、さらに漢字には音訓といった読み方が複数あり、この文字を自由自在に操れるのは特殊な能力である。日本語は、表音文字と表意文字を混在させているため、「表現力」と「思考力」を高める最高の教材でもある。

ちなみに、ひらがな、カタカナが無くてもだいたい文書の内容が通じる。冒頭の1段落を漢字だけで表現すると、

以前、書、様、氣、日本語、漢字、残、理由、韓国、漢字、使、無、表音文字、文字、中心、日本語、近。

想像しながらであるが、半分ぐらい分かるだろう。

本題に戻るが、日本人が発明した訓読みとは何か。例えば「難」という漢字を中国から輸入してきた(パクったともいう)としよう。読み方は「ナン」。そのまま漢文調で書いたり、苦難などの熟語として使っていたりしたが、日本語に元々あった“やまとことば”「むずかしい」と同じ意味なので、この言葉にあてることで、難は「ナン&むずか(しい)」と音訓の両方の読み方を備えさせた。

そんなの当たり前だろ、と言われてしまえば元も子もないが、それは日常使っているからであって、初めて日本語を学ぶ人からしたら、とんでもないことである。常用漢字2千文字の形や書き順を覚えて書ける様になるもの大変なのに、さらに読み方が複数あるなど、人間の言葉と思えないだろう。

訓読みの「訓」という意味は「ときほぐして読むこと」である。訓示という言葉は、めっきり使われなくなったが、以前は「上司の訓示」といって目上の人が「大切なこと」をときほぐして部下に説明していた。現在では「うざっ!」と言われそうなことであるが、含蓄に富んだことを噛み砕いて説明し、後輩たちに伝承する場として訓示は重要な役割があった。

日本人が開発した訓読みから読み取れることは、日本には「難しいことをときほぐして伝える文化」があったということだろう。この「ほぐす」という感覚が日本的なのである。

魚食の日本人は、「魚の身をほぐす」ことで美味しい魚を食べることができるとよーく知っていた。魚の身を丁寧にほぐせる人は、日本では尊敬される。ということは、「ほぐす」を様々な商品やサービスに入れることで、付加価値が高まり、儲かるはずだ。現に、難しい社会問題や政治をほぐしてわかりやすく伝える池上彰さんは儲かっている。

さらに「儲」の漢字をほぐしてみると「信じる者」になる。そう、「ほぐしたら儲かる」のだ。

信じるか信じないかはあなた次第です。

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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