第167回「人を使うビジネスの限界」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第166回「日本は資本主義のゴール?」

 第167回「人を使うビジネスの限界」 


安田

物流のヤマトさんが子会社を売却しちゃうそうで。

石塚

はい。引っ越し会社ですね。

安田

そもそもヤマトが引っ越し会社を持ってたことを知りませんでした。

石塚

物流のついでにやってたサービスです。宅急便の人が暇なときに手伝いに行くっていう、割と安くていいサービスだったんですよ。

安田

アート引越センターに売却したんでしたっけ?

石塚

そうです。アートコーポレーションに売りました。

安田

アートって引っ越し業界をつくった会社ですよね。業界のなかでも「高いけど高品質」みたいなイメージがあって。

石塚

はい。おっしゃる通りです。

安田

わざわざヤマトの子会社を買う必要があるんですか。

石塚

ヤマトが得意にしてたのは大きな家具や家電を運ぶ引っ越し。この会社を買うと自動的に大型家具や大型家電の商圏が取れます。

安田

なるほど。ということは顧客名簿が目的ってことですか。

石塚

販路の獲得ですね。あとは大型家具を運ぶ技術。傷つけちゃいけないし梱包も独特だから。

安田

そういうノウハウも含めての買収だと。

石塚

そう。ノウハウとお客様ごと買えればアートもメリットがある。

安田

傷つけずに運ぶことに関してはアートもノウハウを持ってそうですけど。

石塚

どの業種も総合多様化していく流れなんです。「なんでも引っ越しできる会社」としてサービスラインナップを広げたい。

安田

へぇ~。

石塚

なるべく多様化したい、事業を分散させたい、っていうのがひとつの流れです。

安田

今はどんどん寡占化が進んでますよね。

石塚

はい。

安田

専門性の高いところも吸収されていきますか。

石塚

ある程度の規模のところはそうなります。総合多様化するしか生き残る道がない。

安田

ヤマトはもうそこでは太刀打ちできないと思って、手を引いたってことですか。

石塚

僕はヤマトが持っていても良かったと思います。ヤマトは選択と集中に向かってるように見えるんですけど、この時代に選択と集中にかじを切るのは誤りだと思う。

安田

もっと手を広げたほうがいいってことですか?

石塚

はい。なるべく「えっ、そんな事業をヤマトがやってるの!?」っていう事業を、もっとつくったほうがいい。

安田

それは「寡占化していく」という流れに逆行してませんか?最終的に引っ越し会社は3社ぐらいしか生き残れないってことですよね。

石塚

寡占化していく最大の理由って人なんですよ。

安田

人?

石塚

いちばんのボトルネックは引っ越しのスタッフを確保できないこと。つまり人員を持ってる会社が結果的には勝つってことになっちゃうわけです。

安田

お客さんじゃなくスタッフですか。

石塚

そのとおりです。要するに戦国時代と一緒。姉川の戦いは「何万何千」対「何万何千」みたいな、必ず「人数」対「人数」の軍勢表示をするじゃないですか。

安田

はい。

石塚

あれと一緒です。人を使ってビジネスするしかない事業は、抱えてる人数が多ければ多いほど勝つんです。

安田

桶狭間のようなことは起きない?

石塚

まあ無理でしょう。1人でやってる会社が局地的に勝つことはあるかもしれないけど。

安田

ある程度の規模になれば軍勢の大きいほうが勝つと。

石塚

引っ越しスタッフを1人とるのにどれほどコストかかるかってことですよ。

安田

ということはヤマトのスタッフを手に入れることも目的ですか。

石塚

そのとおりです。

安田

売ったヤマトより買ったアートのほうが経営者としてリテラシーが高そうですね。

石塚

僕はそう思います。

安田

アートって引越し業者の中では価格が高いですよね。

石塚

高い、高い(笑)

安田

高いけど「アートに頼みたい」って人がいるんでしょうね。

石塚

そうなんですよ。

安田

高く売ればスタッフに払えるギャラも増えるわけで。

石塚

おっしゃる通り。

安田

となると採用においても独り勝ちになる可能性がある。

石塚

そうなんです。

安田

「いかに高く売るか」が生き残るカギになるってことですね。

石塚

安売りの引っ越し屋は家業でやってるうちは強いんです。でも人を増やせない。だから結果的には駆逐されるんです。

安田

家族でやってるうちは労務問題も起こらないですからね。

石塚

おっしゃる通り。だけど大きくできない。安売りで規模は伸ばせないんです。

安田

寡占化してしまえば一斉に値上げしていく可能性もありますか。

石塚

いずれはそうなるでしょうね。

安田

なるほど。そう考えると飲食って厳しいですよね。寡占化することなんてありえないし。個人店もあふれてるから。

石塚

飲食は個人店が強いですね。

安田

チェーン店はまさに安さを売りにしてます。寡占化の理論でいくと全滅ですか?

石塚

飲食店って「F」「L」「R」の3つを売価から引いたものが手残りなんですけど。

安田

それは何ですか?

石塚

Fは「food」で材料費、Lは「Labor」でアルバイトや正社員にかかる人件費、Rは「Rent」で家賃(賃料)のことです。

安田

なるほど。

石塚

自前の不動産物件でやってるかぎりは安売りできちゃったりするわけです。

安田

チェーン店では無理ですよね。

石塚

無理ですね。だからチェーン店は厳しいわけです。

安田

飲食チェーン店ってこの先どうなっていくんでしょう。

石塚

そこに新しいビジネスモデルをつくったのがパルニバービという会社です。

安田

パルニバービ?

石塚

チェーンなんだけど同一の屋号を使わない。倉庫や空き家を店舗にして独自のオリジナル店をつくるんです。

安田

それぐらい尖らせないと難しいと。

石塚

「ガスト○○店」っていう全国展開はこの先難しいでしょうね。単なる安売りでは成り立っていかないです。

安田

ということは「ガスト○号店」みたいなチェーン店は、いずれは値上げ戦略に打って出る?

石塚

必ずそうなると思うんですよ。そうせざるを得ない。

安田

へえ〜。

石塚

そうしないとスタッフが確保できない。だからいま必死にやってるのは自動化です。

安田

自動化か値上げか。どちらかにいくしかないと。

石塚

はい。人を使うビジネスはこの先ホントにしんどいですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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