第171回「小さくまとまることのススメ」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第170回「17歳の自分探し」

 第171回「小さくまとまることのススメ」 


安田

お笑い芸人の有吉さんが結婚しましたね。

石塚

はい。夏目三久さんと。

安田

夏目さんは結婚を機に仕事を辞めちゃうみたいです。

石塚

専業主婦になるらしいですね。

安田

有名人の結婚ってすれ違いが多いらしくて。そうなりたくないから仕事を辞めるっていう。

石塚

十分稼いでますからね。

安田

それもあるんでしょうけど。コロナを機に仕事を辞めるアナウンサーさん、最近ニュースでよく見かけます。

石塚

しんどい職業ですからね。アナウンサーって。

安田

それは分かります。でもアナウンサーってすごい倍率を通り抜けて、容姿も端麗で頭もよくて、年収だってそこらへんの男よりはるかに稼いでて。

石塚

まあね。

安田

それをあっさり辞めてしまうってすごい決断ですよ。

石塚

アナウンサーで入社しても全員が売れるわけじゃないから。異動しちゃう人もいるし。昔ニュースを読んでた人が今はIR室にいたり経営企画にいたり。

安田

それでも稼ぎはすごいでしょう。

石塚

普通のOLよりは稼いでます。でも高い収入を維持できる人って一握りじゃないですか。次から次へと若い人が出てくるわけですし。

安田

固執するほどの仕事ではないと。

石塚

続けるのはしんどいと思いますよ。ほんの一握りがフリーアナウンサーになってすごく稼いでいるように見えるだけで。

安田

今までも辞めちゃう人っていたんですか?

石塚

一定数はいましたね。新陳代謝が起こるから退社する人は毎年います。

安田

アナウンサーって女性のあこがれの職業ですし、収入もいいわけで。それをポンと捨ててしまうっていうのが、なんか時代を感じるんですけど。

石塚

もちろん時代の変化もあると思います。

安田

お金とかステータスより、もっと大事なものがあるんじゃないかっていう。

石塚

世の中がそういう空気になってきてますからね。

安田

コロナを機に辞める人が出てきたのも、「お金がなくても、有名人じゃなくても、普通の小さな幸せでいいや」みたいな。

石塚

世代的に「つながり」重視なんでしょう。

安田

つながり重視ですか。

石塚

消耗が激しい割になかなか相談できる人も少ない。脚光を浴びれば浴びるほどきついだろうし。そういうときに親身になって話を聞いてくれる人が出てくると。

安田

辞めちゃいますか。

石塚

その人とずっと繋がっていたいっていう気持ちが、強くなるんじゃないんですか。

安田

コロナで時間が止まっちゃった感があるじゃないですか。

石塚

ありますね。

安田

自分を見直すいい機会になったでしょうね。

石塚

そう思います。

安田

それで価値観が変わっちゃった人も多いのかなって。

石塚

多いと思いますよ。

安田

ポストコロナで仕事を変えるとか、生き方を変える人が増えていく気がします。

石塚

じっさいに転職相談はものすごく多いらしいです。

安田

やっぱりそうですか。

石塚

ええ。ものすごく忙しいって聞いてます。あと「住まいを変える」とか「家族と一緒に過ごす時間を増やす」とか。ライフスタイルを根本的に見直したい人が増えてますね。

安田

アナウンサーって、すごく朝早い番組を担当したり、夜遅かったり、学生時代の友だちにも会えないそうです。

石塚

まあ会えないでしょうね。

安田

収入とかステータスと引き換えに失うものがものすごく大きい。これまでの常識では収入やステータスの優先順位が高かったですけど。

石塚

そこは大きく変化しつつあります。

安田

お金よりも普通の生活をとる人が増えてる感じですよね。

石塚

間違いなくそうだと思います。

安田

とは言えもったいない気もします。アナウンサーを辞めちゃうなんて。

石塚

とくに今の時代は大変なんですよ。アナウンサーにも高潔性をすごく求めるじゃないですか。

安田

高潔性ですか。

石塚

芸能人の不倫だって、昔はあんなの当たり前のようにあったけど。いまはものすごく叩かれるじゃないですか。

安田

昔は「芸の肥やし」とか平気で言ってましたから。

石塚

そうそう。

安田

いまはえらいことですもんね、不倫なんてしたら。

石塚

そういう時代なんですよ。お笑いで頭たたくのもだめだっていう話ですから。

安田

つまり「生きにくくなってる」ってことですか。

石塚

価値基準が変わったんでしょうね。財産とか形のあるものより、人間の感情というものにすごく重きを置いてる。そういう価値観に世の中がシフトしちゃった。

安田

もう成長路線には戻りませんか。

石塚

日本は行き着くところまで来たんですよ。とくに欲しい物もないし、いまは餓死するってこともないじゃないですか。

安田

そうですね。

石塚

コンビニに行けばおいしいおにぎりやお弁当がいっぱいあるし。物に囲まれることへの渇望っていうのがない。とすると感情を優先する方に行きますよね。

安田

そういうエネルギーのなさが「日本をだめにしたんだ」って言われてますけど。

石塚

もう「競争を勝ち抜いて成長させる」って時代は終わりです。

安田

これからはどういう時代になるんでしょう。

石塚

これから先は「もっと幸福度の高い、精神的な豊かさ」を実現するために、いろんなテクノロジーを考える時代です。

安田

お金や社会的ステータスは人生の目標にはならなくなってくると。

石塚

そんなに働かなくても生活できるのであれば「みんなもうちょっと遊びましょう」って話になるじゃないですか。

安田

そんなに頑張らなくてもいいと。

石塚

ある意味、目標に達したんですよ日本は。

安田

江戸時代に逆戻りしちゃった感じですね。

石塚

そうそう(笑)坂の上の雲をつかんだと思ったら、「俺はいったいなにをやってるんだろう?」みたいな。虚無感に襲われてるんじゃないですか。

安田

「世界第2位の経済大国になったけど、大して得るものはなかった」みたいな。

石塚

お父さんもぜんぜん帰ってこないし。体壊すまで働いて、最後はマイホームぐらいしか残らない。「あんなのもういいよ」って子供は思いますよ。

安田

たしかにそうですね。

石塚

「あなたもね、となりの安田さんみたいに仕事は5時で終わりにして、毎日一緒にご飯食べて、ああいうふうになりなさいよ」って、たぶん言われてますよ。

安田

言われてますかね(笑)

石塚

もう週休3日へのシフトは始まってますから。10年以内に週休3日になりますよ。

安田

ますます働くことへの意欲は下がっていきますね。

石塚

それでいいんです。縮小均衡で小さく幸せにまとまっていけばいい。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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