第178回「日本のベンチャーが向かう先」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第177回「安売りスーツの未来」

 第178回「日本のベンチャーが向かう先」 


安田

東芝のこれ、私には状況がよくわからないんですけど。

石塚

ああ。東芝本体を3つに分ける話ですね。

安田

はい。ネットでは「日本を支えた大企業がもうボロボロだ」とか言われてて。どういう状況なんですか?これ。

石塚

簡単に言えば「大きすぎて意思決定が遅くなるから小さくしよう」ってことです。

安田

それって流れに逆行してませんか。GAFAはどんどん合併してますけど。

石塚

GAFAは意思決定が早いじゃないですか。

安田

たしかに。なぜそんな差が出るんでしょう。

石塚

GAFAは常にメンバーが入れ替わって、世界中で多様な人たちがいろんなプロジェクトをやってるんですよ。

安田

そんな感じですね。

石塚

東芝は相も変わらず、何十年前と同じ顔ぶれでやってる。だから意思決定は遅いし、イノベーションなんて起こるはずがない。

安田

でも大企業って基本的にはスケールに向かうんでしょ?それしか道がないような気がするんですけど。

石塚

グローバルな競争って、たとえば半導体も日本国内だけで済まないじゃないですか。

安田

はい。

石塚

グローバル競争で勝つためには、半導体は半導体だけの会社にするしかない。どこかと資本提携とか、場合によっては傘下に入る判断もあるだろうし。

安田

今のままではそれができないと。

石塚

「総合電機グループのトップの判断を待って」なんて言ってたら、とてもじゃないけど遅すぎる。

安田

なるほど。そういうことですか。

石塚

半導体と発電とキオクシア。「それぞれの業界のスピードと状況に合わせて、どんどん意思決定してやっていこう」ってことです。

安田

分割して「それぞれ、がんばって生き残ろう」ってことですか。

石塚

そういうことです。まあ、遅いけどね。

安田

遅いんですか。

石塚

遅い。「いまそれか」みたいな。でも、やらないよりはやったほうがいい。

安田

分割以外に手はないんですか?

石塚

大きな会社は似たような人間ばかりいて、同じメンバーが同じやり方で意思決定してるわけです。それでは勝てないってことが東芝の事例で証明された。

安田

今のやり方ではもう無理だと。

石塚

速やかに意思決定して、朝決めたことが午前中には組織にバッと行く。そういうスピードじゃないと勝てない。ついていけない。

安田

じゃあこれは東芝に限った話ではない?

石塚

他の大企業も同じです。「東芝でさえそうなんだから、うちも事業部ごとに分社させよう」って、どんどん分割されていくでしょうね。

安田

分割されると東芝ではなくなるんですか。

石塚

一応屋号は東芝だけど内容はまったくちがう。もう別の会社ですよ。

安田

ひとつの時代が終わるってことですね。

石塚

これからはベンチャーやユニコーンをもっと輩出しないと。

安田

だけど日本はポッと出の会社とか成功者を叩くじゃないですか。

石塚

そういう傾向はありますね。

安田

この風潮が変わらないかぎり、日本から新しい企業は出てこない気がします。この前日本人がノーベル賞をとってましたけど、実質アメリカの大学での研究者で。

石塚

そうですね。

安田

日本が賞を取ったと言えるのかどうか。国内から優秀な人がどんどん離れていく気がするんですけど。

石塚

優秀な人が海外に出ちゃうことは確かです。ただ企業に関してはちょっと違うと僕は思ってます。

安田

ほう。

石塚

安田さん、今週の新規上場企業承認って何社あったかご存じですか?

安田

いえ、知りません。

石塚

20社以上あるんですよ。

安田

へえ〜。

石塚

いまは投資先が限られてるから、お金がそっちに流れてる。

安田

そうなんですね。

石塚

昔に比べてスタートアップやアーリーステージに相当なお金が流れてます。アメリカに比べたらまだスケールは小さいけど。

安田

アメリカは大手を凌駕するベンチャーも出てくるじゃないですか。日本のベンチャーって「大手にはなりきれない新興会社」というイメージで。

石塚

これから変わっていくと思います。

安田

大手を逆転するベンチャーとか、日本でも出てくる可能性はありますか。

石塚

あると思います。丸の内銘柄なんてこの20年ほとんど株価が上がってないから。

安田

とはいえ学生には相変わらず人気がありますし。社会的ステータスも大企業に勤めてる人のほうが高いじゃないですか。

石塚

新卒で入っても3年以内にやめる人は増えてるし、「本当に優秀な学生がとれなくなってきた」ってぼやきは多いです。

安田

いま時の優秀な学生はベンチャーに就職するんですか。

石塚

採用も雇用もグローバル化してまして。大きな理由はニューヨーク市場なんですけど。

安田

ニューヨーク市場?

石塚

世界中から投資が集まってくるから、株価の上がり方が半端ないわけです。だからみんなニューヨーク市場での上場を目指す。となるとアメリカに行くのは理の当然で。

安田

みんなアメリカに行っちゃうと。

石塚

そこを目指す人材が増えてますね。

安田

私の中では「ベンチャーに就職した」って人より「三井物産に就職した」って人のほうが優秀なイメージですけど。感覚が古いんですかね。

石塚

正直ちょっと古いかなと(笑)

安田

なるほど(笑)

石塚

たとえばソフトバンクや楽天は三井物産と同じ「経団連銘柄」という認識なんですよ。いわゆる、英語で言うと、Old Large Companyですね。

安田

ソフトバンクも楽天も、もう「オールド」なんですね。

石塚

オールドですよ。「イノベーションで社会を変える」という意気込みのベンチャーが1週間で20数社、新規上場企業承認されてるわけで。

安田

それこそが本当のベンチャーだと。

石塚

僕はそう思ってます。そして、これは率直に評価すべきことです。

安田

そういう会社に優秀な人材が流れてると。

石塚

まずビジネス界にも、大谷翔平・藤井聡太級の「質のいい20代経営者」が増えてる。

安田

本当に優秀な人は自分で起業しちゃう?

石塚

そうです。そして、そういうベンチャーに優秀な新卒が就職する。この流れはもう実際に始まってます。

安田

へえ〜。そうなんですね。若い人はもっと安定思考かと思ってました。

石塚

「とにかくリスクを冒したくない」という20代はすごく増えてます。

安田

ですよね。

石塚

けどイノベーションによって社会を変えようって人も増えてます。昔は100人中1人しかいなかったのが3人ぐらいに増えてる。

安田

二極化してるんですね。

石塚

二極化して、すごく質のいい起業家タイプが世代の3%ぐらい現れてきてる。これが日本の未来にとっていちばんの資産だと思います。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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