第197回「93%が山林と言う場所で50社を超えるスタートアップ企業が誕生?!という小さなブルーオーシャン」

このコラムについて

小さなブルーオーシャン?
何だかよく分からないよ。ホントにそんなので商売が成り立つの?

と思っている方は多いのではないでしょうか。何を隠そう私もそのひとりでした。私は人一倍疑り深い人間なのです。そこで・・・私は徹底的に調べてみることにしました。小さなブルーオーシャンなんて本当にあるのか。どこに行けば見られるのか。どんな業種なら可能なのか。本当に儲かっているのか。小さなブルーオーシャン探求の中で私が見つけた答えらしきもの。それはきっとみなさんにとっても「何かのヒント」になるはずです。

「93%が山林と言う場所で50社を超えるスタートアップ企業が誕生?!という小さなブルーオーシャン」


以前、お客さんからタクシーの運転手さんに儲かっているかを聞くと、だいたいその地域の景気がわかると言われたことがあります。

先日、新卒大学生の就職イベントで講演をするために岡山に行ってきました。会場まで移動するタクシーでの運転手さんとの会話は、景気の話。株価が上昇しても、世の中景気がいいという報道があっても、あまり稼げてはいない。さらに働き方改革の影響や白タクの容認などでフルコミッションのタクシー運転手はますます稼げなくなる、などとおっしゃっていました。

そんな岡山で注目されている「ローカルベンチャーの聖地」があるのをご存知でしょうか?多くの地域で過疎化が問題視されているなか、行政や企業から注目を集めている「村」です。

人口1400人の小さな村が、「奇跡の村」として大注目

岡山県の北東部、中国山脈の谷あいにある人口約1400人の西粟倉(にしあわくら)村。面積の93%が山林であるこの地の人口の約15%は移住者が占めると言います。そして、これまでに50社を超えるスタートアップ企業が誕生しているというのが驚きです。

2004年ごろ、国策として市町村を合併させる「平成の大合併」が進められる中、この西粟倉村は合併を拒否し、自主・自立を決意したそうです。なぜなら、村が過疎化するシナリオが見えていたから。一見すると過疎化するシナリオが見えているのであれば、逆に合併した方がよいのでは?と考えがちです。しかし、この西粟倉村は本質を深く考えていたようです。具体的に言うと、合併すれば、学校の統廃合が進みます。学校のある地域は文化の中心だから、学校がなくなると人は村から出ていってしまう。つまり、合併することは余計に過疎化が進んでしまうということなのです。とは言え何から手を付けていけばよいのかがわからない。そこで総務省の地域マネージャー事業でコンサルタント事業者として入っていたアミタ株式会社とともに議論を重ねた結果、注目したのが「村の93%を占める森林」です。

実は、日本国内の林業って、ビジネスとして成立していないというのをご存知でしょうか?
例えば杉の木。人工林として60年間育てるのに1ヘクタール当たり200万円以上の費用がかかるそうです。一方で、木材は丸太のまま原木市場に出すのが一般的らしく、たとえば4mの杉の丸太の売価は1本3,000円ぐらいだそう。森の所有者には500円ほどしか入らない。つまり木材として売って得られる収益は全国平均で100万円程度。一から育てて販売したとして、差し引き100万円の赤字になってしまう。

そこで西粟倉村では林業の6次産業化に踏み切ります。この林業の6次産業化の起点になったのが、アミタ株式会社のシンクタンク部門の事業部長として、西粟倉村の地域創生に参画し、現在は同地区でエーゼログループを設立。地域創生に幅広く携わる牧大介氏。エーゼログループは森林から切り出した原木の製材・加工、流通を担うようになり、地域の木材を無垢の床板などの内装材、木のおもちゃや家具などさまざまな商品にして販売。これにより西粟倉村で伐採された木を買い取り、木材として付加価値を生み出す仕組みができたそうです。次第に西粟倉村の林業は徐々に注目を集め、県外から林業のステークホルダーとなる事業者がやってくるようになっていきます。

ここで、西粟倉村は次のステップに進んでいくことに。以前から課題だった雇用の問題を、林業に限らず幅広い事業を起こすことで改善しようと考えたそうです。

2015年、西粟倉村で起業する人材を発掘・育成する支援プログラム「西粟倉ローカルベンチャースクール」が開始。企画運営は前述の牧氏。

初年度は合計18件の応募があり、狩猟や帽子店の事業が採択されたとのこと。ローカルベンチャースクールを経て15社ほどが誕生し、その会社から独立して新たな会社も生まれ、現在、村内には約50社の会社があるそうです。村役場もさまざまなファイナンス面でローカルベンチャースクールをバックアップしていると言います。
売上げは、50社合わせて20億円ほどだそうですが、人口は減っていても、納税者数は7%、課税所得平均は9%伸びているそうです。

ローカルベンチャーの聖地となった西粟倉村にはさまざまな人材が集まり、福祉、教育、コンサル、クリエイティブなど多種多様な事業が生まれているそうです。

ローカルベンチャーの聖地となった西粟倉村。成功例として取り上げましたが、当然、多くの苦労、大変なこともあったはずです。みんながみんな賛成してくれるわけもないでしょうし、資金面でも不安なことがたくさんあったと思います。

しかし、諦めないという精神面と同時に、やはりすごく考えながら、チャレンジしながら進めていること、そして、負の遺産と思われたものを強みに変えていることが大逆転の要因な気がします。

多くの小さなブルーオーシャンは、マイナスなものをプラスに変えるという共通点があるように思います。

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西粟倉村
岡山県英田郡西粟倉村
URL https://www.vill.nishiawakura.okayama.jp/
※とても素敵なHPですよ。
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佐藤 洋介(さとう ようすけ)
株式会社グロウスブレイン 代表取締役

大学(日本史専攻)を卒業後、人材コンサルティング会社に16年間勤務。ソフトウェア開発会社、採用業務アウトソーシング会社、フリーランスを経て、起業。中小企業の人材採用、研修に携わる一方で、大学での講義、求職者向けイベント等での講演実績も多数。人間の本質、行動動機に興味関心が強い。
国家資格キャリアコンサルタント、エニアグラムファシリテーター、日本酒ナビゲーター。

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