なぜ人は欲しくなるのか

どういう理由でその商品を買いたくなったのか。
買う人たちにとって、
そんなことはどうでもいいことである。
欲しくなったのなら買えばいい。

だが売る側にとっては考えざるを得ない問題である。
相手に欲しくなってもらわなければ、
商売は成り立たないからだ。
なぜ人は欲しくなるのか。
何かを売ろうとする側はここを解明しなくてはならない。

商品自体に営業させる。
セールスなきセールスを実行する。
私がそこにこだわる理由がまさにここにある。
人は売ろうとすればするほどその商品を買わないのである。

強引な客引きに引っかかるのは酔っ払いか、
もしくは客引きを欲している人だけだ。
まともな判断ができる人に何かを売りたいのなら、
まずその人を欲しい状態にしなくてはならない。

では人はなぜ欲しいと思うのか。
この問題を解明するためには質問自体を変える必要がある。
正しい問いはこうだ。
人は何を欲しいているのか。

たとえばずっと行きたかったお店や、
ずっと欲しかったオモチャがあるとしよう。
あの鮨屋のあの握りが食べたい。
みんなが持っているあのオモチャが欲しい。

欲しているのは握りやオモチャであるように感じる。
だがそれらは単なる手段に過ぎない。
重要なのはその欲求がどこから来ているかだ。

テレビの食レポで見た高級な鮨屋。
芸能人が食べていたあの握り。
それを自分が食べているシーンを妄想する。
なんと幸せなことだろうか。

友達が持っているオモチャを羨ましそうに見ている自分。
その状況がオモチャを手に入れることで一変する。
自分のことを羨ましそうに見る友達。
同じオモチャを持ち寄って楽しそうに遊ぶ自分。
なんと幸せなことだろう。

そう、欲しているのは幸せそうな未来の自分なのだ。
握りやオモチャはそれを手に入れるための手段に過ぎない。

握りに使う大間のマグロについてうんちくを語る。
その目的はより幸せな未来を妄想させるため。
大間のマグロの希少性や美味しい理由を知ることで、
握りはより美味しくなる。

つまり顧客が買っているのは商品ではなく、
その商品を買うことによって
自分に起こる変化なのである。

買わない未来と、買ったことによって変化した未来。
その未来がステキであればあるほど
人はその商品が欲しくなる。

売る力とはステキな未来を妄想させる力なのだ。
志望校に合格した幸せな未来の息子。
それを強烈に妄想させてくれる塾に
親はお金を払うのである。

 

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