リアルの価格

顧客先を回って注文を取る営業マン。
手作業で仕上げをする製造スタッフ。
飲食やアパレルの店舗で接客をする店員。
このような職種の人件費は下落圧力に晒され続けてきた。

できるだけ安く人を使うことで販売価格を下げ、
競争力を高め、企業利益を確保する。
それがここ数十年の大きな企業戦略である。
だがそれも限界に近づいてきた。

若年労働人口が減り続ける中で
低賃金の仕事には人が集まらない。
サービス残業は禁止され、
業務委託の線引きは厳しくなり、
社会保険料は上がり続けている。

人材の採用・育成・定着には
これまで以上に莫大なコストがかかる。
人を安く使うことで利益を出すモデルは
もう成り立たない。これから予想されるのは
リアルな仕事における二極化である。

生身の人間がリアルな現場で
営業する、接客する、仕上げる。
これらの価格が上昇し始めることは明白である。
当然のことながら企業は省人化、
オンライン化に舵を切るだろう。

オンラインで済むことはオンラインで、
システム化できるものはシステムで、
とにかく人間が関わる作業時間を減らす。
ではリアルな仕事は無くなってしまうのか。

生身の人間が携わる仕事は
当然のことながら価格が高くなる。
それでも訪問してほしい。接客してほしい。
手作業で仕上げてほしい。
そのような要望は決してなくならない。

生身の人間にしか出せない価値があるからだ。
つまりリアルな仕事は激減するがその価格は高騰する。
それに見合う価値を提供できるスペシャリストだけが
生き残っていくだろう。

安く人を使って利益を出す。
このモデルに不可欠なのは「代わりが効く人材」と
「誰でもできる仕事」である。
誰がやっても同じような仕事。
そこに高い代金を支払う人はいない。

この人の提案ならお金を払っても聞きたい。
この人の接客を受けられるなら特別料金を払う。
この人の手作業になら倍の金額を払う。
リアルで残るのはこういう仕事である。

つまり「代わりが効かない人材」と
「この人にしかできない仕事」。
これまでとは真逆の高く人を使って
利益を出すビジネスモデルだ。

リアルで人を使うなら
スペシャルな人だけを高いギャラで使う。
その付加価値で商品を高くする。
これがひとつ目の選択肢。

高いギャラが払えないなら、
どんどん省人化・システム化して、
人間が関わる時間を極限まで減らす。
これがもうひとつの選択肢。
経営者はどちらかを選ぶしかない。

 

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1件のコメントがあります

  1. 全くその通りだと思います。
    いつもコラム、楽しく読んでいます。
    ありがとうございます。

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