第241回「賃金プラスアルファの時代」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第240回「スマホは受験を変えるのか」

 第241回「賃金プラスアルファの時代」 


安田

1月の倒産がすごく増えていて。リーマンショック以来の件数だそうです。

石塚

円安とウクライナ問題とコロナもあるし。厳しいですよ。

安田

仕入価格が上がって、それを販売価格に転嫁できない倒産と、もうひとつが人不足倒産。値上げできないし給料も上げられない会社。

石塚

適正な会社数まで減らしたほうがいいですよ。

安田

やっぱり中小企業は多すぎますか。

石塚

今のままだと多すぎる。報酬を増やして成り立たない会社は「ビジネスモデル自体がもう難しい」という判断をすべきです。

安田

「安く使って利益を出す」というのは、もう無理だと。

石塚

そういう発想はもう捨てたほうがいい。いまの時代には成り立たない。

安田

人を使うんだったら、給料を増やしていくことを決断しないとダメですか。

石塚

そういうことです。

安田

よく言われている「中小企業が多すぎる」という話はどうですか。どんどん合併してスケールメリットによって生産性を高めて給料を増やす戦略。

石塚

中小企業の数が多いか少ないかというのは、一概には言えないです。

安田

それはどうして?

石塚

儲かっている会社ばかりなら多くてもいいわけで。「うちも儲かってます」「うちも儲かってます」ならいいんです。それが1次産業であれ2次産業であれ3次産業であれ。

安田

そんな業界あるんですか。

石塚

業界は関係ないです。その会社の問題。儲からないのは「値段のつけ方」を間違っているか「ポジショニング」を間違えているか。そこを根本的に考え直したほうがいい。

安田

たとえば飲食店や美容室って「人が採れないし、給料は安いし」って言われている業界ですよね。

石塚

はい。

安田

だけどすごく儲かっている飲食店や美容室もあるわけじゃないですか。

石塚

あります。

安田

誰も儲かっていないように見えるけど、「いや、うちは儲かってるよ」みたいなのって現実としてあるわけで。

石塚

間違いなくありますね。

安田

そっちを目指さなきゃダメだと。

石塚

たとえば「繁盛している個人経営のラーメン屋」って最強なんですよ。

安田

ラーメン屋が最強?

石塚

「人手が足りない」なんて聞いたことないです。

安田

儲かってるだけじゃなく、採用も上手くいってるってことですか。

石塚

なぜ上手くいくか分かりますか?

安田

そこで働きたい人がいるんでしょうね。

石塚

おっしゃる通り。修行したいんですよ。

安田

なるほど。

石塚

募集なんて出してないのに、「絶対この味を学びたい」「採用面接お願いします」って人が来る。

安田

まさに採用コストゼロですね。

石塚

入りたくても「ごめん、もう足りてんだ」って言われて。5回も6回も通って「じゃあしょうがないな」って。

安田

選びたい放題ですね。

石塚

弟子入りしたいぐらいの魅力があれば、求人の問題なんて消えちゃうんですよ。

安田

そこにしかない価値があるってことですね。

石塚

ラーメンは分かりやすいです。そこでしか食べられない味っていう。

安田

美容室も同じですか。

石塚

同じですね。単にカットしたりパーマしたりするだけじゃなく、「この人にカットしてほしい」「この店に通いたい」という価値を追求していかないと。

安田

そこまで行けば採用の問題も解決しますか。

石塚

解決します。とにかく「指名料2,000円払ってでも行きたい」という付加価値を生み出すこと。

安田

「人生相談に乗ってくれる美容室」というのがありまして。高いカット料金を払って若者が来るそうです。

石塚

そういう付加価値もありですね。もちろんカットやパーマが下手では話にならないけど。

安田

飲食店だったら「食べ物がおいしい」ということは大前提として、プラスアルファの価値をつくり出す必要があると。

石塚

おっしゃる通り。バカ高いわけじゃないんだけど、決して安くもない。ちゃんとそこに価値を認めてくれるお客さんを掴んでる。これができると採用も同時に解決できる。

安田

大手のチェーン店はどうなっていくんでしょう。採用にも苦労してますけど。

石塚

大手チェーンはもう街のインフラだから。全国どこに行っても価格が見えるし、年中開いているし、インフラみたいなものじゃないですか。

安田

インフラ勝負でいくんだったら、ある程度安くせざるを得ないですよね。

石塚

せざるを得ないです。ただそれも限界があって鳥貴族も値上げしました。

安田

今はどこも値上げしてますからね。

石塚

チェーン店はこういう時しか上げられないんですよ。

安田

その点、個人店は値上げも自由ですよね。鳥貴族の2倍3倍の値段でも繁盛してる店はあるし。

石塚

ありますね。お店によりますけど。

安田

個人店なのに鳥貴族より安く売ろうとする店もあって。私にはちょっと理解できないです。

石塚

お客さんを絞るのが怖いんでしょう。

安田

絞った方が集客は楽なんですけどね。

石塚

三波春夫以来の「お客様は神様です」が染みついてるから。

安田

これから先は値上げしないともう無理ですよね。

石塚

値上げできないお店はもう厳しいと思います。

安田

安さが売りの店は、もう人を使うビジネスは無理ってことですよね。

石塚

時間を付加価値に変える何かを経営者が持っていないと。

安田

それがあれば採用も上手くいくと。

石塚

そこで働く「賃金プラスアルファ」があれば、上手くいきます。

安田

「商売の勉強ができる」以外にどんなプラスアルファがあるんですか。

石塚

「すてきな出会いがある」というものもありでしょうし。「お客さんにすごく喜ばれる」とか「好きなことが活かせる」とか。

安田

なるほど。

石塚

「どこに絞るのか」というのはそれぞれでいいんです。ただしそこに惹きつける魅力があること。

安田

それってどんな業種でも可能ですか。

石塚

可能だと思います。

安田

スモールビジネスだったら数人の採用で事足りますし。「どうしてもここで働きたい」って人とマッチすればコストを抑えながら採用できますよね。

石塚

そうなんですよ。だけど他社と同じようなことばかりアピールして、失敗する会社が多いです。コストもかかるし、採用した人も辞めてしまうし。

安田

なぜそっちに行っちゃうんでしょう。

石塚

働く人の気持ちを考えてないからですよ。だから企業目線で求人を作ってしまう。こんなにいい会社です。こんなにお得ですよって。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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