2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
前回は 第130回「新卒の境目」
第131回「ホワイトカラーの実態」
「業績が悪いからリストラ」ではない?
はい。大手はそこが決定的に違います。業績がいいほど危ない。
そこを分かりやすく学生さんに伝えてあげてほしいです。
たとえば40歳過ぎて、払ってる年収と仕事のパフォーマンスが合わないとします。
はい。
これから先を考えると、ますます合わなくなっていきます。
はい。
そこに国が「定年延長をもっとしろ」と言ってきます。
じっさい言ってきてますね。
そうすると、今でも生産性が低いのに「ますますその分の生産性が下がる」ってことです。
そうなりますね。
つまり「そのマイナスを会社が引き受ける」ってこと。
はい。
「あなたが社長ならどう思いますか?」「困りませんか?」ってことです。
いや困ります。なるほど。分かりやすい!
だから「このギャップをなくすのがリストラです」というわけ。
なぜ業績がいい時にリストラするんですか?
だって「今日リストラする」って言って「はい、わかりました」とは引き受けてくれないですよね。
そりゃそうですね。条件にもよりますけど。
そう。条件による。つまりリストラするにはたくさんお金がいるわけです。
だから業績が好調なときにやるしかないと。
その通り。たくさんの割増退職金と再就職支援サービスをつけて、赤字になってる社員を早く切りたい。早く損切りしたい。それが好業績企業のリストラってことです。
なるほど。
もちろん業績が悪いパターンもあります。東芝みたいな。
あそこまでいったら整理解雇も認められますから。
はい。
業績がいい会社は余裕があるから「金を使ってリストラしていく」ってことですね。
おっしゃるとおりです。
ということは「ものすごく業績の悪い会社」と「ものすごく業績のいい会社」がリストラの中心になってくる?
そうですね。もうひとついうと「市場環境が急激に変わって事業の転換をしなければいけない」という会社。
それは業績がいい会社の話ですか?
業績はとりあえずいい。とりあえずいいけど「このままじゃ難しいな」っていう会社。そういう会社は、ほぼ全社リストラを検討してるし、リストラを実施してます。
やっぱりお金がないとリストラできないんですか。
倒産直前までいかないとできません。それが日本の労働法なので。
お金がないと社員をリリースすることもできないと。
そのとおりです。
じゃあ、ぶら下がり社員には「お金のない会社」が狙い目じゃないですか。リストラされないので。
皮肉ですけど、そのとおりですね。
ほどほどの会社を選ぶのがいい選択だと。
ところが「ほどほどの会社」だったはずが、資本の合併とか、持株会社に入っちゃったりすると急に状況が変わる。
整理されちゃうこともあると。
そうなんですよ。たとえば日立電線なんて「ぬるま湯企業」の典型ですよ。
へえ。そうなんですか。
ところが日立グループの再編で「えーっ!?」みたいな話になって。
30年間電線しかつくってこなかった人って、どうなるんですか?
どうもなりません。
なりませんよね。
でも現業系は強いですよ。電柱に登ったり工事したりっていう人。現場はやっぱり人手が要りますから。
調達系はどうですか?原料の仕入れとか。
無理でしょう。
無理ですか!
調達はいま、どんどんネット化しててグローバル化してる。あれこそ会社あっての仕事だから。
なるほど。
個人で技術を持っていけないんですよ。
安定を目指すなら「現場に近いところに居続けろ」ってことですか。
そのとおり。だから20代後半でブルーカラー系への転職が増えてる。
そうなんですか。
はい。水道工事とか電気工事とか。
へぇ~。
一生食えますし。
「ブルーカラーは負け組」みたいな時代が長らく続いてましたけど。いまは逆転してるってことですね。
昭和生まれの世代ってそれが勝利の方程式だったから。でも世の中自体が変わっちゃった。
学生さんはそこに気がついてないと。
「有名大学を出ると収入の高い会社に入れて一生安定する」という図式は完全に壊れた。それに気づかないとだめです。
壊れているのに、人気企業ランキングの顔ぶれはあまり変わらないですよね。それはどうしてですか?
ひとつは教育。つまり学校の影響ですね。もうひとつは家庭。つまり親の影響です。
いまだに「有名企業に入ることが人生の成功だ」って教えてる?
そこは何も変わってないです。
学校はともかく家庭でもまだそうなんですね。
サラリーマン家庭が増えすぎたんですよ。
なるほど。親もホワイトカラーだから。
いや。ホワイトカラーに見えるけど実態はブルーカラーみたいな仕事です。
どういう意味ですか?
知的労働ではないってことです。
じゃあ何なんですか?
精神労働。
精神労働?
頭脳を使わずに気を遣ってるってことです。だからうつが多いわけです。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。