第182回「なぜ竹中平蔵は悪く言われるのか」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第181回「第4のメガバンクは生まれるのか?」

 第182回「なぜ竹中平蔵は悪く言われるのか」 


安田

竹中平蔵さんのことを聞きたいんですけど。

石塚

うぇ~っ(笑)

安田

竹中さんって、結構いいこと言ってると思うんですけど。

石塚

はい。

安田

小泉首相も嫌いじゃなかったし。けど世間の評価は「竹中さんと小泉さんが日本をだめにした」っていう。「日本の格差を生み出したのは竹中平蔵だ」とまで言われてまして。

石塚

まあスケープゴートですよ。

安田

そうなんですか。

石塚

はい。竹中平蔵を叩けばちょっとスカッとするみたいな。「あいつが日本を悪くしたんだ!」って、犯人探ししたいんです。

安田

実際いろんな規制を緩和しましたよね。金融機関にも厳しく決着をつけた人でもあるし。

石塚

ある意味英断ですよ。あのまま放っておいたらズルズルと悪くなっただけで。

安田

派遣業種が増えたことに関してはどうですか?「非正規雇用を増やした犯人は竹中平蔵だ」と言われる所以ですけど。

石塚

同じですよ。「時代が新しく変わる → 変わると不都合な人が多い → 誰が変えたんだ? → 竹中平蔵だ! → 竹中平蔵が悪い!」って、たぶんこういう流れだと思う(笑)

安田

非正規雇用が増えたことに「竹中平蔵は関係ないぞ」ってことですか。

石塚

関係ないですね。

安田

竹中さんがいなくても非正規雇用は増えてた?

石塚

はい。こんなことを言うと叩かれるかもしれませんけど、こんなに労働者寄りで解雇規制の強い国はなくて。これがあらゆる成長を阻害してる。

安田

人の流れも止まってますし。

石塚

非正規って本来であれば一時的なものであって、労働市場がきちっと流動していれば、ちゃんと流れていくわけですよ。

安田

非正規自体が悪いわけではないと。

石塚

いまは「誰もやりたくない仕事を非正規の人に押し付けている」という構図。だから叩かれてるわけで。

安田

同じ仕事をしても正社員より給料が安いことは事実です。

石塚

そこが問題なんですよ。

安田

つまり正社員が搾取しているのであって、経営者や竹中平蔵が搾取してるわけじゃないと。

石塚

おっしゃる通り。

安田

竹中さんは「同一労働同一賃金」もセットで考えてたみたいですね。

石塚

もちろん。だって終身雇用をずっとつづけるなんて無理なんですから。

安田

人材を流動化させること自体は正しい?

石塚

正しいです。

安田

同一労働同一賃金には賛成ですか。

石塚

基本的に間違ってないと思います。今の同一労働同一賃金には反対ですけど。

安田

そうなんですか。

石塚

はい。

安田

正社員のほうが高い賃金をもらうべきだと。

石塚

逆です。終身雇用自体がもう成り立たないんだから。

安田

同じ仕事なら正社員のほうが安い?

石塚

だって雇い続けないといけないんですよ。だから僕はかねてから「全員有期雇用にしたほうがいい」と言ってるんです。

安田

そうなると非正規雇用という概念自体がなくなりますね。全員が非正規になるので。

石塚

おっしゃる通り。ただそれだのけ話なんですよ。最長10年にすればいい。

安田

そもそも「正規雇用」なんてものはないんだと。

石塚

ない。みんなが有期雇用だから。長くても10年。

安田

そしたらどうなるんですか?

石塚

「安田さん、いま何年目?」「俺、もう9年目で、来年はそろそろ」「じゃあ、いまから考えてるんでしょ?」「自分でやろうかと思うんだけどさ」「あ、いいねえ」なんていう。

安田

終わりが分かっていれば考えざるを得ないですもんね。

石塚

そうなんですよ。あともうひとつ僕が同一賃金に反対する理由があって。

安田

なんですか?

石塚

同一労働って、要するに仕事が一緒だったら成果に関係なく同じ給料で。これっておかしくないですか?

安田

もっと成果寄りにしたほうがいいってことですか?「なにをやったか」じゃなく。

石塚

そうそう。

安田

同一成果同一賃金だったらOKってことですね。

石塚

OKです。だって手を抜くに決まってるじゃないですか、同一労働同一賃金なんて。

安田

そうですよね。賃金は同じなんですから。

石塚

でしょ。 正規か非正規かなんて関係ないんですよ。

安田

だけど「正社員ほどロイヤリティが高くて一生懸命やる」って、なぜか経営者は信じてますけど。

石塚

それ僕も不思議です。

安田

ですよね。

石塚

現実は逆ですよ。非正規で優秀な人はいっぱいいます。

安田

外注であれば、できるだけ短い時間で終えたほうが自分の収入は増えるし。かといって手を抜いたら次に仕事来ないから、一生懸命やります。

石塚

おっしゃる通り。

安田

正社員は時間に対する報酬なので、100の仕事をやろうが、200やろうが、大して報酬は変わらない。

石塚

「できるだけ少ない労力で8時間を終えよう」って方向に行くに決まってる。

安田

なぜ経営者はこんなにも正社員神話を信じているんでしょう。

石塚

かつての日本のサラリーマンは、それぐらい死に物ぐるいで働いてたってことです。

安田

なぜ昔はそんなに働いたんですか。

石塚

バブルがはじけるまでは「会社がすべての時代」だったから。

安田

「サボる」とか「手を抜く」っていう概念がなかったわけですか。

石塚

日本経済も上り坂だったから。あの頃のお父さんは忙しかったと思いますよ。朝早く出て行って夜遅くに帰ってきて。ちょっと一杯飲んでたらもう午前様ですよ。

安田

ブラックな職場を自慢するかのように働いてましたよね。

石塚

そう。だけどもう時代は変わったんです。「会社がすべて」なんていう人いないでしょ。

安田

それは給料が上がらなくなったからですか。

石塚

これだけ変化が激しいと雇用期間より事業や会社の寿命のほうが短いんですよ。だからしょうがない。終身雇用なんて約束できる会社はもうないよっていう。

安田

竹中平蔵のせいじゃないと。

石塚

ないです。竹中さんを叩いていると、なんか正しいことを言ってるように思うだけ。「じゃあ、あなたどうしたいの?」って聞いても答えがない。

安田

「非正規をぜんぶ正規雇用に変えて、ちゃんと給料を払え」と言いたいんでしょうね。

石塚

その裏には「すぐにはクビにならない安定した生活をください」っていうメッセージがあって。

安田

そういうことですね。そうなると正規雇用の人たちの収入がガクンと減りますけど。

石塚

平均的に配ると給料は減ります。そして、かつてのソ連や中国みたいに貧乏な国になっていく。

\ これまでの対談を見る /

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから